歯科治療8年の苦労ばなし 7

           
                   
 上の写真はブラナの塔と言います。
 
なにもない草原の真ん中に、たった一人という感じで建っていました。
 
回教寺院のミナレットか、見張り台のようなものだったのではと言われています。 
 
 今週は、スプリントの調子は順調です。
 
スプリントを付けた状態と、外したときの状態が、近い状態になるようにと、
 
月曜日に、高すぎる左右のクラウンや仮歯の部分入れ歯を削りました。
 
スプリントを付けて、舌の筋肉の緊張が取れたときも直ぐだったのですが、
 
今回も、首左横の筋肉の緊張が、歯医者からの帰りの道で、
 
すでに緩んでいるのに気づき、本当に驚きました。
 
いったいこの八年は何だったのでしょう。
 
 今回は、第八章、不安なままで、五軒目の歯医者に転院するところからです。
                           
            
                「歯科巡歴の記ー蟻地獄に落ちた」
 
    第八章  五軒目の歯医者
      
          一  不安な選択            
 
 
 やっと四軒目の歯医者を見限って他へ移る決心をした。
 
 しかし、これという歯医者は見つからない。
 
 この半年の間、親類縁者、友人、知人、出会った人に片端から尋ねると、十五人の人が歯で
 
苦労していると言って色々教えてくれた。
 
「でもね、そこまで拗れた歯を治療できるような歯医者は知らないわ。そんな名医がいたら紹介し
 
欲しいくらいだわ」
 
「今、通っている歯医者も、たいして上手ではないけど、仕方なくよ」
 
「年を取って、もっと歯が悪くなるまでに、どこか上手な歯医者を見付けなければと思っているの」
 
 全員が、似たようなことを言う。歯科と整形外科は良いところがないそうだ。ここまで拗れると、
 
ますます誰もが適当な歯医者などは知らないと言う。
 
 唯一、かって衛生士をしていたという人が、太鼓判で五軒目の歯医者を勧めてくれた。四軒目の
 
歯医者に行く以前から勧めてくれていたが、そちらは止めて四軒目の歯医者を選んでいたのだ。
 
 「四軒目、巧くいかなかったわ」
 
「こっちは間違いないわよ。義歯やクラウンは自分で作らないと気が済まないの。技工士よりも
 
ずっと上手よ。歯科大学の教授をしているから知識も十分。私が知っている歯医者の中で
 
一番巧いわ」
 
「大学の教授をして開業もしているの?」
 
「ええ、大学が放してくれないので困るって言ってた」
 
「ふーん」
 
「ただね、気難しいので衛生士さんが居着かずに夫婦二人でしているの。奥さんも、ちょっと変っ
 
ていて、言いたい事をズケズケ言う人で、これが難点なんだけど」
 
 パートの教授なんてあるのだろうか。ただの時間講師ではないのか。それを本人が“教授”と
 
いう言葉を使うという事自体が、おかしい。そのまま鵜呑みにして伝えるのも、おかしい。義歯の
 
細工もして、“教授”もして、忙しすぎるではないか。余程、流行っていないのだろうか。
 
 元衛生士は、大風呂敷を広げる人だという噂がある。しかし、仮にも衛生士をしていた人だ。
 
ここまで拗れているのを知って、なおかつ勧めるのだから、まさか、まったくのデタラメではない
 
だろう。
 
 これとは違ったアドバイスをしてくれる人がいた。四十年来の友人で大阪の大学病院の近くに
 
住んでいる。
 
「大学の歯科に診察券を朝早くに入れてあげる。車で駅から病院まで送り迎えしてあげるから」
 
「片道三時間、往復六時間よ。そこまで行く気はしないわ」
 
 親切に言ってくれたのに、まだ軽く考えていた。
 
 町の開業医でも治療できる程度のものだ。この二年間に、左下の二本は、二度も痛みを感じ
 
ないまでに治ったことがある。一本は、また削って痛くなっただけ。もう一本は、たいした痛さでは
 
ない。ポールを、むりやり引き抜いて痛くなっただけ。二本ともしばらく薬で治療して、ブリッジを
 
作れば良いのだ。下のブリッジと噛み合わせの合っていない左上の二本も、低くなった右下の
 
二本も歯に痛みはない。クラウンを被せ直し、詰め物を詰め直すだけだ。形の細工が上手なら、
 
それで良い。単純にそう思っていた。
 
 
 
 また根っこを削られてしまった歯の痛みが、治まりそうにない。鎮痛用に四種類の薬を試した
 
が、たいした効果はなかった。そんな薬でも手持ちが少なくなって来ると心細い。
 
 歯医者に行くしかない。自力では治らない。
 
 筋肉トレーニングをしたら治るとか、食事制限をしたら治るとか、減量したら治るとか、そんな
 
だったらどんなに良いだろう。
 
 内科の病気なら、二、三軒、医者の梯子をしても、どうということはない。外科でも、すぐに手術
 
をする訳ではない。診察してもらって説明を受けてからでも転院できる。歯医者は、そうはいかな
 
い。その場で外科的な処置をする。梯子が難しい。
 
 まったく知らないところへ飛び込みで行くのは不安だ。元衛生士の勧める歯医者しか町の
 
開業医では候補がない。一度試してみようか。それで駄目なら大学病院へ行こう。
 
 意を決っして、彼女の絶賛する五軒目の歯医者へ行くことにした。
 
 四軒目の歯医者には、断りの電話を入れる。断りの言い訳には、親に病気になってもらうのが
 
一番と、元衛生士が入れ知恵をしてくれた。
 
 
 
 ゴールデンウィークの前に痛みを何とかして欲しい。五軒目の歯医者に予約の電話を入れた。
 
 受付の応対は歯切れが良い。良すぎた。
 
「その方の紹介ですか。院長に診て欲しいのですね」
 
 院長というからには歯科医が何人もいるのだろうか。
 
 地下街を抜け階段を上がるとすぐだった。駅から近い。ほとんど雨に濡れずに行ける。これは
 
幸先が良いかもしれない。些細なことでも良い方に取りたい。小さなビルの三階、エレベーター
 
を降りると、突然ぶつかりそうな目の前に歯医者のドアがあった。
 
 ここまで来たのだ。開けるしかない。
 
 ドアを開けると、チャイムが鳴る。受付には誰もいない。
 
「ちょっと待って」
 
 奥から、声がした。他に客はいない。無駄がまったくない整然と片づいた待合室。空気まで
 
塵一つないかのように、シーンと静まりかえっていた。四軒目の歯医者とは対照的だ。人間臭さ、
 
暖かさがまったく感じられない。機能的に徹している。
 
 しばらく待つと奥から女の人が出てきた。目と眉を残し、顔はすっぽり特大サイズのマスクで覆
 
っている。見事なまでの金髪をアップに結い上げ、眉毛まで金髪に染めていた。アニメの犬夜叉
 
の金髪版のようだった。
 
 辛辣なことを言う少し変わった性格の人と聞いていたが、外見もそうとうショッキングだ。
 
 待合室の雰囲気、出てきた女の人の風貌、なにか普通ではない。とんでもない名医か藪か。
 
その中間ではない。そう確信できた。
 
 紹介してくれた人もそんな感じだ。一見、凄く真っ当そうで、反面かなりインチキ臭い、エキセン
 
トリックな人。そう言えば、三軒目の歯医者も紹介してくれた人と感じが似ている。少し下世話な
 
人情肌の下町風。四軒目もそうだ。育ちが良くて明朗、軽快、権威に拘る。紹介者と歯医者は
 
似ているようだ。私に似ている歯医者はどこにいるのだろうか。
 
「支度できたから入って」
 
 奥さんらしい女の人は、一人で受付も衛生士の仕事もこなしている。歯医者とこの奥さん二人
 
だけのようだ。
 
「どうしました」
 
 今までの経過を簡単に説明する。歯医者は私の口を覗き込みながら、横で一緒に覗き込んで
 
いる奥さんに話しかけた。
 
「左下のブリッジ、正しい歯の位置に入ってないなあ」
 
「そうお?」
 
 「連休前なので、今日は取り敢えずパノラマ写真を撮ります。治療は休み明けからに
 
しましょう。」
 
 連休中に、ますます痛くなったら困ると思って来たのに残念だ。
 
 会計を済ませる。
 
「今まで通っていた歯医者はどこ」
 
  唐突に奥さんが尋ねた。名前を一軒ずつ確認して書き留める。こんな事を聞かれるのは初め
 
てだ。聞かないのが業界の申し合わせかと思っていたのでちょっと驚いた。
 
 それにしても、なんとぞんざいな話し方をする人だろう。口が悪いというより愛想がなさすぎる。
 
あれで開業医の受付がよく務まる。終始、怒ったような表情で、にこりともしない。いったいなに
 
が不満なのか。明治の官憲も、ああではなかっただろう。あんな女の人には今まで出会ったこと
 
がない。
 
 この歯医者で本当に良いのだろうか。
 
 不安を抱かえて地下鉄に乗った。
 
               
 
              
 
 
     二  ついつい期待した         
 
 
 開業医はこれで最期。ここで駄目なら大学病院へ行く。そう思って五軒目の歯医者に替わった。
 
が、この選択で良いのだろうか。これまでも迷いはしたが、これほどではない。
 
 一軒目は家の近くだから、二軒目は一度行ったことがあるから、三軒目は、そこで治療を受け
 
た友人のクラウンが綺麗だったから。
 
 その後は煮え切らない。三軒目と四軒目の歯医者で事態が複雑になってしまったからだろうか。
 
 三軒目の後、二度目に二軒目の歯医者に行ったが、大病院の先生の指示だから仕方なく。
 
 四軒目は迷った。とりあえず、沁みるクラウン一本を作り替えてほしかった。十カ月通って、
 
さらに事態は複雑に悪化。ますます、どうして良いか判らなくなった。
 
 五軒目は、こんなに悩む。歯の痛みが思考を混乱させる。とりあえず歯の痛みを何とかして
 
欲しい。どこへ行けば根本的な治療をしてもらえるのか。二つの思いが錯綜する。
 
 
 
「無駄がなく、簡潔、清潔という言葉がぴったりの歯医者さんでした」
 
「そうでしょう。先生も奥さんも、二人とも綺麗好きなの」
 
 紹介者の元衛生士に電話を入れる。明るい弾んだ声が返ってきた。
 
「治療は連休明けからです」
 
「治療も無駄がなく手早いから、きっとすぐ治るわよ。良かったわね」
 
 ここで治療するのが良いのかもしれない。他に適当なところは見つからないのだから。
 
 
 
 連休が終わった。予約の日だ。
 
「レントゲン写真で見る限り、痛くなる原因はありません。前に診てもらった先生に電話で
 
聞きましたが、患者が痛いという限り、蓋をしてブリッジを固定するわけにはいかなかった
 
と仰っていました」
 
「はっ!?」
 
 四軒目の元助教授に電話をかけたようだ。当然と言えば当然だが、四軒目の歯医者は真実を
 
伝えていない。
 
「歯以外に原因があるのではないですか。更年期ですしね。他の科に行った方が良いのかも
 
しれませんよ」
 
 四軒目の歯医者との会話の内容が想像できる。話が続く。最後には自分の自慢話になった。
 
「今までの歯医者も、大学院も出て余分な勉強をした人で、元助教授だった人もいます。
 
その人達が治せないのですから。もちろん僕も大学院を出ていますがね」
 
 そんな話をするより歯を一度見ればどうか。イライラする。
 
「そう仰られても痛いのです。一旦は治まったのですが、削って、また痛くなりました」
 
「とりあえず、見ましょうか」
 
 やっと、仮留めしていたブリッジを外し、第二大臼歯の根を覗いた。
 
「これは、かなり出血していますね」
 
 歯の根の中を詳しく診る器械を持って来た。
 
  この器械は、今まで行った歯医者の中では三軒目と、この五軒目にしかなかった。電気の
 
抵抗値かなにかで、神経か歯根膜の位置が判かるようだ。金属の棒のようなものの 先端が神経
 
か歯根膜に近くなると、ピッー、ピッーと音がする。
 
 三軒目の歯医者は、それで調べながら神経を削った。神経を深く削り過ぎ歯根膜を貫通してし
 
まった。炎症を拡大させ、骨シンチまでする羽目になった。また思い出してしまう。
 
「うーん。普通は神経を抜いた後の隙間に薬を入れるのですが、この歯は神経が途中で切れて
 
残っています。薬は途中から神経と関係のない場所に入っていますねえ。それに二カ所、歯根膜
 
を貫通しています。しばらく治療をしなければいけません」
 
 最初の説明と話が全然違う。
 
「前の先生に電話で聞かなくても、開けてみれば、もちろんすぐ解ることだったのですが…」
 
 罰が悪そうに言った。
 
「以前、治療した先生は年配の方ですよね。昔は神経を取るのに深く削ったのです。最近は
 
歯根膜の手前で留めます。こんなに深くは削りません」
 
「そうですか」
 
 言いたいことはあったが、さりげなく返答した。事実が解ってもらえればそれで良い。器械の類
 
も揃っているし、知識もあって腕も良いのなら治るかもしれない。
 
 初めに意にそぐわないことを言われ不愉快になった後で、納得いくことを言われると、それが
 
単なる事実で当然のことであっても、ほっとして無性に嬉しくなる。セールス、勧誘の常套手段
 
らしい。何事でもそうなのだろう。良い先生に思えてきた。
 
 
 
 新しい歯医者に替わるたび、周りの人達に言っていた。
 
「今度こそ良さそう」
 
「替わるたび、最初にそう言ってるよな。まだ、わからんで」
 
 夫や友人達が冷静に言う。
 
 何カ月かすると、やっぱり“藪”だったと落胆する。
 
「でも、良いと期待しないと通えないしね。無理ないよ」
 
 優しい慰めを言ってくれる人もいた。
 
                       つづく
                                                  
広告
カテゴリー: 健康 パーマリンク

歯科治療8年の苦労ばなし 7 への2件のフィードバック

  1. Tamaki より:

    白い花さん (^ー^)ノマイド
    お医者様も 勿論 人間 だから 出来 不出来 有りますよね
    良い お医者様 と 会えた方は 本当に わずかだと 思います
    でも より 健康に 成って下さい。

  2. 白い花 より:

    Tamakiさん、有り難うございます。
    7月から、本当に嘘のように良い方向へ向かっていると思います。
    寝たきりだったときのことを思うと、今は嘘のように元気です。

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中