着信メロディー 1

 
         P1000290
 
 私は、もう、とうとう、切れるというか、ぶっち切れそうです。すねて、ぐれました。
 
で、腹いせに書いたのがこの番外編です。
 
 下の写真は、近くの川筋で、夏頃、撮ったものです。この花の名前、どなたかご存じなら
 
教えてくださいね。
 
                            

 
 
      「 歯科巡歴の記ー蟻地獄に落ちた」
 
番外編    
     「着信メロディー」
 
 
 
「私の歯と声と脚と青春を返せ!」
 
 左右の腕に一本ずつ握り締めた金属バットを思い切り振り下ろした。
 
 歯医者の受付カウンターをまず叩き割り、診察室の治療台をズタズタに打ち砕き、
 
窓ガラスもすべて粉々に蹴散らした。バリ、バリ、ガチャ、ガチャ、ガチャ。
 
ガッチャーン、ガッチャーン、床一面に治療器具が散らばった。
 
「キャアー」
 
「警察を呼べ、110番だあ!」
 
 受付係と歯医者が大声で逃げまどう。
 
 大きなマスクと金髪がトレードマークの受付係は動転て逃げるときに、その金髪
 
落とした。慌てて拾って前後逆に頭に乗せた。円形脱毛症を隠すためのカツラだっ
 
たようだ。金髪のスダレから、三色団子のように茶色の濃淡に色分けされた丸い禿三個が、
 
はみ出していた。
 
「ギャハハハハー、はげダンゴー」
 
 
 
 バカ笑いする声で目が覚めた。
 
 ああ、夢か。へんな夢。
 
 ベッドから出て、顔を洗いに洗面所へ行った。歯を磨こうとして口を開けた。
 
「えっ!」
 
 前歯がない。歯なし老婆のようだった。
 
「なんでぇ!?」
 
 今は、どうすることもできない。真面目一筋、仕事の鬼は、とにかく仕事へ行かな
 
ればならない。いつもどおり支度をして家を出た。途中マスクを買って、口元を
 
隠した。
 
「おはよう。風邪でも引いたの?」
 
「ええ、まあ……」
 
 前歯のことは誰にも気づかれなかった。
 
 無事仕事を済ませ、寄り道なしで帰宅した。
 
 歯が落ちていないかと、ベッドの周辺、階段、洗面所を探したが見あたらない。
 
 ええい、この際と、家中大掃除をしたけれど、どこにも前歯は落ちていなかった。
 
 あー疲れた。ベッドに横になる。
                                                                              
「お願いしまーす。これ読んでくださーい」
 
 駅前の大通りで、大声を張り上げてビラを配っていた。
 
「ご通行の皆さーん、こんなひどーい藪歯医者がいまーす」
 
「なんだ、なんだ?」
 
「どうしたの?」
 
「ひどい藪歯医者なんです。私の歯と声と脚と青春を奪ったのです」
 
「歯と声と脚と青春? 何年前の話?」
 
「いえ、今年の話です」
 
「でも、おたく、とっくに六〇歳は過ぎているでしょ?」
 
「いいえ、まだ二〇歳です。この顔は藪歯医者のせいです。歯がないと梅干し婆の顔
 
なるのです。歯と声と脚と青春だけではなく、若い美貌まで奪ったのです」
 
「へえ、どこの歯医者? そんなところへは行かないようにしなくっちゃ」
 
「ビラに詳しく書いています。受付係は特大マスクと金髪のカツラがトレードマークで、
 
まるで犬夜叉の金髪版、眉毛まで金髪に染めています。歯医者はマザーグースの
 
ハンプティーダンプティーにそっくり、色白の出っ腹です。気を付けてくださーい」
 
ウー、ウー、ウー。
 
赤いランプをピカピカさせて、パトカーがやって来た。
 
「ビラまきの許可を取ってないな。道交法違反で逮捕する」
 
「ご勘弁を。初犯ですし」
 
 
 
 冷や汗びっしょりで、目が覚めた。
 
 なんだ、どうしたのだ。
 
 今夜もまた、へんな夢だった。
 
 もう眠れないし、お腹も減ったから、少し早いけれど朝食にするか。
 
 パンとコーヒーと、昨晩から手を付けずに置いていたレタスサラダを食卓に
 
並べた。パンを噛みきろうとしたが、前歯がないのを思い出した。
 
じゃあ、サラダでも。レタスを口に入れた。が、噛めない。奥歯がない。
 
 今度は奥歯がないのだ!
 
 奥歯がないとレタスは噛めないのを知ってしまった。
 
 草食動物が草を噛むのは臼の歯なのだ。奥歯の臼歯がないと菜っ葉類は噛めないの
 
あったりまえ。横の犬歯あたりでは、キュウリやリンゴをパリパリ、サクサクッと
 
噛み砕くくらいしかできない。
 
 レタスサラダ、もったいない。昨夜のうちに食べておくんだった。
 
 昨日は前歯がなくなった。今日は奥歯がなくなった。
 
 家中探し回ったが、迷子の前歯も奥歯も現れなかった。
 
 とにかく仕事一筋、真面目人間なのだから仕事には行かなければ。マスクをして
 
出かけた。
 
 夜、帰宅してから、また家の大掃除をして、前歯と奥歯を探した。疲れた。諦めて
 
ベッドに倒れ込んだ。
 
 また、へんな夢を見たらどうしよう。
 
 朝起きて、また、なにか無くなっていたら。
 
 思い悩んでみたが、疲れには勝てない。眠ってしまった。                                                                                                                                      
                            
「アッ!」
 
 歯医者が手を滑らせた。
 
 手に持つピンセットから針の付いた薬のカプセルが落ちた。
 
 ブスッ。
 
 針が舌に突き刺さった。
 
 カプセルには歯の神経を殺す、最強だと歯医者が言った薬が入っていた。
 
「チョ、チョット、そのまま待っていて下さいよ。抜く道具を取ってきますから」
 
 慌てた歯医者は、ピンセットをしっかり握り締めたまま隣の部屋へ走って行った。
 
「お待たせしました」
 
 ピンセットで別のピンセットをしっかり挟んで戻ってきた。
 
 まるで真剣勝負でもするかのように、眉間に深い皺を寄せ、ハッシと新しいピン
 
ットに持ち変え、ソロリと針を抜いた。針に付いていたカプセルは空になっていた。
 
正確には、薬は一滴ほどを残しただけで舌に注射されてしまったのだ。
 
「大丈夫。しばらくは痺れて違和感があるかも知れませんが、心配ないです」
 
 しかし、あれは神経を殺す薬。舌の神経はどうなるのだ。
 
「ほ、ほ・ん・と・う・に……」
 
 本当に大丈夫かと聞きたかったが、巧く言葉にならない。
 
 だ、だ、大丈夫じゃないのだ! 心配あるではないか!
 
 
 
 まさか!
 
 ベッドから飛び起きた。
 
 ああ、また夢か、へんな夢だった。
 
 夢だとは解っていたが、念のため洗面所へ行って鏡で確かめてみなければ心が安ま
 
らない。このまま、また眠る気にはならない。
 
「ア・ア・―・!」
 
 シ、シタが……。舌がない。
 
 いや、ある。よくよく見ると捻れて喉の奥に縮こまっていた。これでは言葉を巧く
 
繋げて話せない。しかし、仕事一筋、真面目人間だ。なんとしても仕事には行かなけ
 
れば。またマスクをして出かけた。
 
「どうしたの? だんだん、ひどくなるわね。喉もやられたんだ」
 
「う・ん……」
 
 仕事が終わると一目散に帰宅。
 
 前歯を探し、奥歯を探したが、やっぱり行方不明のままだ。舌は喉の奥にある。
 
探す必要はない。しかし、喉の奥から拾い上げシワを伸ばそうとしても、これが
 
なかなか難しい。真夜中まで頑張ったが駄目だった。
 
 今夜は、もう眠ってはいけない。なにが起きるか分からない。
 
 もう絶対に死ぬまで眠らないぞと決意した。
 
 が、睡魔は襲ってきた。ついウトウトしてしまった。
                                                                                                       
                                                                     つづく
                                                     
  (文字数が多くて一つの記事内に収まりませんでした。着信メロディー2 に続きます)
 
 
 
広告
カテゴリー: 健康 パーマリンク

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

w

%s と連携中