歯科治療8年の苦労ばなし  54 

 
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  今日の写真は、 我家の庭の初夏の花。今年は、凌霄花(のうぜんかずら)が気でも狂っ
 
のかと思うほど咲いています。
 
 歯の方は、ひたすら我慢!? 
 
 今回も、まだ第一章が続きます。その”7 キルギスでも外れない仮歯 ”です。 
 
         

 

        「歯科巡歴の記―歯科からの帰還」

 

 第一章  二人目の主治医

 

       七  キルギスでも外れない仮歯        
 
  
 やっと痛い二本の歯の再治療に漕ぎつけた。
 
 最初は第二小臼歯からだった。歯周科の担当医からは、治療をすれば間違いなくそれまでより
 
良くなると言われていた歯だ。
 
 いつもは明るい笑顔の担当医が、少し困った顔で切り出した。
 
 「私が治療をしますが、このポールは補綴科で外してもらってくださいね。
 
 私には残っている歯の根っこに傷をつけずに外す自信がありませんので」
 
  この歯は歯茎の上に見える部分はなくて、根っこしか残っていない。根の上に金属のポールが
 
 立っているだけだった。
                               
 五軒目の歯医者までは歯茎から上の部分も残っていて、それに直接ブリッジを被せていた。
 
ところが五軒目でブリッジをし直すときに、誤って削り落としてしまったようだ。天然の歯が残り少
 
いので、金属の被せものをしてベースを作ってから、その上にブリッジを被せると説明を受けて
 
た。が、そうはなっていなかったのだ。この病院へ来て初めて知った。
 
 それまでも、あまりに細い筒状の金属なので奇妙に感じていた。こんなに細く歯を削らなければ
 
ならなかったのか。それにしてもこんなに細く削れるのか。その細い歯にこんなに細い筒状の
 
ものを被せることが出来るのかと。だが、まさかこんなことになっているとは思いもしなかった。
 
五軒目なんと器用なのだと感心さえしていたのだ。
 
 そう言えば、五軒目が「金属を被せるので歯を綺麗に削り直しました」と言った日、いつもは裸
 
のままにしていた歯にセメントを山のように積み上げて被せた。今度だけなぜと不審に思った
 
記憶がある。あれは、歯茎から上の歯がなくなってしまったことを隠すための隠蔽工作だったの
 
か。三年も経って、やっと気が付くとは。
 
 そう気が付くと辻褄が合うことが他にもあった。五軒目の後で行った七軒目が、私が器用に細
 
被せたと思い込んでいた金属のことを「これはベースではなくてコアと言います。こうしてしまっ
 
ら触ると根にヒビが入るので、痛くてもやり直すことはできません。もう後は抜くしかないです」
 
と、説明したのだ。それでも、そのとき私はまだ真相を理解できていなかった。
 
 さらに七軒目は、五軒目の施したこの歯の神経の治療跡をレントゲン写真で見て、「下手だ」と
 
も言った。そんなことはないはずだと見せてもらうと、根っこに見事なほど綺麗に入っていた薬が
 
歪な形に変わっていた。五軒目が「壁を取る」と言って削りなおしたときに、こうなったのだろうと
 
思い当たった。こんな調子だから、神経の治療もいい加減だったに違いない。まだ痛いと言っ
 
いるのに、治療を中断して閉じてしまったのだ。
                             
 補綴科の主治医に歯周科の担当医の伝言を伝えた。
 
 「ああ、ポールを外すくらいお安いご用ですよ」
 
 あっさりと引き受けてくれた。
 
 七軒目の開業医が不可能だと言い、歯周科の担当医が自信がないと言った作業を簡単そうに
 
終えた。やっぱり補綴の専門医だ。こういうことは巧いのだと感心する。
  
 いよいよ第二小臼歯の神経の治療が始まった。
 
 歯根の治療そのものは順調だった。が、治療の後でブリッジの仮歯を被せるのが至難の業に
 
なった。ブリッジの脚二本の一本は以前どおり金属のベースの上に被せる。もう一本の治療中の
 
歯はポールがない状態、歯茎の上に歯が見えていない状態で被せるのだ。すでに治療以前の
 
ポールのあるときからセメントで付けても外れやすかった。これでは外れるほうが当たり前だ。
 
ましてセメントなしで上に乗せておくのは不可能だ。
 
 「私の付け方で、外れずに保つでしょうかね」
 
  歯周科の担当医は自信なさそうに言う。
 
 「補綴科の治療を私の後にして、そこで付けてもらった方が良いのではないでしょうか」
 
  なるべくその順番で予約を取るようにした。
 
  補綴科の主治医が付けても歯周科の担当医が付けても結果は似たようなものだった。何度か
 
 やっているうちに、歯周科の担当医の方が慎重で丁寧なだけ長く持つようになった。それでも良
 
 く保って一週間だ。
 
 外れたとき、根っこが治療中で蓋をしていないので、そのまま放置するわけにはいかない。
 
治療中の根っこの中に唾液や食べ物の汁が入り込んで雑菌で汚染され、せっかくの治療は元の
 
木阿弥、振り出しに戻ってしまう。なるべく早く消毒して薬を詰め直してもらわなければならない。
 
救急で付け直しに何度も通った。多いときは一週間に二度も行った。治療費は大したことはなか
 
ったが、交通費が五千円もする。神経を再治療した期間は、治療費の何倍も交通費に費やした
 
 この頃まだ杖はついていたが、右脚の痛みが軽くなってアクセルが踏めるようになっていた。
 
電車とバスを乗り継ぐより、はるかに楽だ。往復の通院時間は二時間短縮されて四時間。 
 
それでも一日仕事だった。
  春が過ぎ夏になろうとしていた。              
 
 その年の初めからスタートした一本目の治療は、仮歯がすぐに外れるというトラブルがあった
 
けれど、予定通りに進んだ。根っこが剥き出しの状態が終わり、歯根に蓋をしてから仮歯を被せ
 
ることができるようになったのだ。歯の痛みも脚の痛みも軽くなり、体調も気分も良かった。
 
 なぜか突然その気になった。旅行に行こう。
 
 憧れのシルクロード、三蔵玄奘が足跡を残す地、天山北路に位置する中央アジアの国、
 
キルギスタン。天山山脈の山襞深く隠された幻の湖、作家の井上靖も訪れることが叶わなかった
 
神秘の湖、イシククル湖。なにがなんでも行ってやる。
 
 旅行前の診察日、治療も終わり補綴科で仮歯を着け直してもらった。旅行中、仮歯が少しでも
 
長く付いていますように、外れても少しでも良い状態で外れますようにと祈る思いだった。
 
 会計を済ませ、車を走らせて一分、カーブでハンドルを切った。付けてもらったばかりの仮歯が
 
ポロッと舌の上に落ちた。いくらなんでも早すぎる。まだ大学の校内だ。時計を見た。三時半。
 
診察は四時までだ。引き返せば付けなおしてもらえる。今、付けてもらわなければ困る。旅行に
 
行けない。ハンドルをギュッと握りしめUターンする。
 
 三階の診察室へ駆け込んだ。
 
 「受付を通さず、直接来ましたか?  その方が、ややこしくなくて良かったです」
 
 主治医は他の患者を治療中なので、代わりの若い歯科医だった。
 
 「被せる部分の下側のプラスティックが擦り減って、被せが浅くなっているので、
 
 直ぐ取れたように思うのですが」
 
 一時間ほど前に同じことを主治医にも言ったが、取り合ってもらえなかった。若い歯科医にも
 
言ってみた。
 
 「ちょっと見せてください。うーん、そうですね」
 
 若い歯科医はプラスティックの仮歯の形を丁寧に補整してくれた。私の注文通り、被せが浅く
 
なっていたのを深く被さるようにしてくれたようだ。付け終えたとき、以前よりは歯茎に深く納まっ
 
ているように感じた。作業に一時間はかかっている。診察終了時刻の四時はとっくに過ぎ、患者
 
も医者も残っている人影はほとんどない。主治医の姿もなかった。チラと見に来ることもなく帰っ
 
てしまったようだ。
                                         
 それから一カ月、外れなかった。キルギスから帰ってもまだ付いていた。十日間の旅行中、
 
今に外れるか今に外れるかと気が気ではなかった。キルギスの町中で、イシククル湖の船上で、
 
今日も保った、今日も保ったと、思いもかけない頑丈さに驚いてしまった。不思議なほどだった。
 
こんなことはセメントをソフトに変えてからは初めてなのだ。
 
 すぐ外れるものだとすっかり諦め、外れるのに慣れて、こんなものだと思い込んでいた。
 
それが間違いだった。やり方次第で一カ月以上も保つ。これを一度だけでも経験したことは、
 
私の治療への見方を大きく変えてしまった。腕次第なのだ。腕の良い歯科医が他にいる。
 
 二週間以上も付いているということが、その後も三度あった。救急のそれぞれ別の歯科医だ。
 
その歯科医のいるときを狙って付け直しに行きたい。だが、救急当番のスケジュールを知ること
 
ができないので、思うようには巡り合わない。
 
 
 
 夏が終わる頃、第二小臼歯の治療が終わって、第二大臼歯の治療に入った。
 
 この歯は治療しても良くなるかどうかは分からない、却って悪くなる場合もあると説明を受けて
 
いた。覚悟して再治療を頼んだ。ひょっとしたら治るかも知れない。そんな程度だった。ところが、
 
一本目が巧くいったのでつい期待してしまった。心が騒ぐ。よけいに不安が増す。
 
 キルギスから運を持ち帰ったのだろうか。治療は良い方向に転び出したようだ。
 
 この歯はベースの金属を外しても、天然の自分の歯が歯茎の上に見えている。治療は先の
 
一本より、むしろ順調に進んだ。年内には無理かもしれないと言われていたのに、十二月を待た
 
ずに無事終了してしまった。
 
 担当医も嬉しそうに笑った。
 
 「思ったよりも手こずらないで早く終わり、私もほっとしました」
 
 「本当に信じられないくらいです。有り難うございました」
 
 横に傾いた第二小臼歯の歯茎に痛みが残ったが、根っこの痛みは二本とも消えた。
 
 幻歯痛ではなかったのか。近いうちに痛みが再発するのではないだろうか。
 
 不安は残るが、とにかく嬉しい。これで鎮痛剤ともお別れだ。治療も先へ進めることができる。
 
                       つづく

                    

  

 

 

 

 

 

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歯科治療8年の苦労ばなし  54  への18件のフィードバック

  1. パンチ より:

    交通費が5000円?2つくらい越境するくらいの距離のようで、最後の方読むと良い方向に向かってるように思えますが、今までの経過をみると何か起こりそう。

  2. あきな より:

    ノウゼンカズラが 次々に咲いて満開ですね!仮歯の外れたのが旅行に行く前で良かった様ですね。これから いい方向に向かっている様に思えます。

  3. Misa より:

    こんばんは☆1枚目のお写真、絵画のようですね(^-^)そう…腕次第。そうなんですよね…お医者さんって、結局は。あとは患者さんとの接し方というのも、大切ですけれど…胃カメラ何度かやったことがありますが、どうして同じ検査なのに、こんなにも楽なときと辛いときの差があるのかと、思ったことがあります。これもお医者さんの腕だったのかも…旅行先から幸運を持ち運んできたという白い花さん、「つづく」のあとのお話も、幸運なストーリーが続けばいいけれど…(>_<)

  4. 白い花 より:

    ごめんなさい!!!!!前の記事53のコメントに、鎮痛解熱剤の名前をデパスと書きましたが、ボルタレンの間違いです。申し訳ございません!!!!!

  5. Unknown より:

    毎回読ませていただいております。コメントの方法忘れたし、めんどうくさい、の思いで居たのですが。なんとか、クリア-できました。すごいですヨ、毎週金曜のアップ。でも、文章の素材としてはいいのかもしれませんが、なんとか解決してぇの思いで拝見してます。おいら、実は端っこのPLの会員さんなんです。なんとか、白い花さんの、早期の解決、祈り続けますネ。

  6. さんぽ より:

    こんにちは。のうぜんかずら・ほんとうに見事ですね。お庭で眺められるのが羨ましいです。きれい~アガパンサスも涼しげでいいですね。近所でも多く咲いてます。今回の治療のお話では 白い花さんの痛みが弱くなったり 外れなくなったりで良い方向へ向かっているように思えるのでホットしました。

  7. 乙女 より:

    今回は良い方向へ進んでいるようなのでホッとしたわ。「つづく」の後にも旅行先から持ち帰った幸運が続きますように^^

  8. じばこ より:

    この頃が、前に写真のあったシルクロ-ドの時期なのですね。やっと、体調、精神的にも安定して来たのでしょう~♪医師の腕の差を感じられますね。よくぞ、ひとりで通い続けられましたね。白い花さんを、ネアカだと信じている(?)ご主人は幸せな方だわヾ(。`Д´。)ノ彡デパスの訂正、ありがとう<(_ _)>周囲でも、大勢飲んでいる薬なんで、不安だったのです!

  9. たんぽぽ より:

    治療を先へ進めることができるようになって、よかったですね!根っこの痛みが消えたのは、本当にうれしいですよね~(^_^)次回はどうなるのでしょうか?

  10. booo より:

    いつも、アメブロの方にはるばるとコメントありがとうございます。(o^ェ^o)/自分はまったくそういうの気にしていないので、決して無理はしないでくださいね!やっぱり、常に前に進もうとしている人には結果が見えてきますね!時には思い切ったUターンも必要だけど、気持ちだけはいつも前を見て自分自身の喜びや希望を忘れていない人には、それに等しい結果があると思ってます。白い花さんのそういう部分に、自分はとても勇気をもらっています。(・∀・)

  11. 洋子 より:

    ノウゼンカズラとアガパンサスが綺麗に咲いていますね。キルギスタンへの旅は突然に思い立ったのですか・・・なんというか不思議な導きのようなものを感じますね。そういう旅は。今回のしめは良い方向に向かっているようですね。

  12. Chieko より:

    こんばんは^^根っこの痛みがとれて本当に良かったですね(^_-)-☆幻肢痛っていうのがありますが、歯にも同じことが起きるんですね。とても長いあいだ、通院でさえ大変なご苦労されているのがよくわかります。治ったらアイスで乾杯しましょ♡

  13. ぷち より:

    こんばんは・・(^-^)すごいですね・・・キルギスタンに何がなんでも行ってやる!って素晴らしい行動力ですね・・・もしかして、それが吉方だったのかも!!そして、やはり腕のいい歯科医は違うんですね。これからどんどん良い方向にいけばいいですね・・・

  14. main より:

    とりあえず「改善」のご様子、長持ちして欲しいですね。根気を乗り切るには こういうBLOGもけっこう役に立ってるように思えます。不満をぶつけちゃいましょう(笑。私も、町内会から卒業し、けっこう言いたい放題、いつもコメント感謝してます(*^-^*)

  15. ひだまり☆☆ニコニコ より:

    白い花さん、おはようございます歯の治療のことは、まだまだわからないことがたくさんあるのですが、白い花さんのブログを読み、今まで気がつかなかったことを勉強させてもらっています。3年後にやっと気づく隠蔽工作って、とても怖いですね。白い花さんがどんなにショックを受けられたのか、、、治療に費やす時間も大変ですが、交通費などもかなりの金額になっていたのですねっ。右脚の痛みが和らいだとはいえ、杖を使わなければいけない状態での運転も不安がいっぱいだったと思います。海外旅行中、歯のことが気になって大変だったようですが、旅行中取れなくてよかったですねっ^^オレンジ色のノウゼンカズラ、とっても可愛い花ですよねっ。ひだまりも通勤する時に通る場所にも大きな木に巻きついて、綺麗な花をたくさん咲かせていますよ^^お家の方が毎日木の下に落ちる花の掃除をされているので、もう少し長い時間咲いていたらいいのになって思いながら仕事に向かっています。今日もオレンジ色の花から元気がもらえるかな。。。

  16. Nami より:

    読んでて、とにかく嬉しい!という言葉が、何よりも嬉しいですね。不安が残るとしても。キルギスでは仮歯が取れなくてよかったですね。(^0^)ノ

  17. hulala より:

    キルギスに行けて良かったですね。でもすごい決断力です。私は腹痛が心配で海外に行けないのですから。毎日仮歯が心配だったと云うのは良く分かります。白い花さんにとって他のことより一番問題なことですからね。

  18. 白い花 より:

    いつも、たくさんのコメント有り難うございます。今回の話は2006年のことです。この年、1年ほどかかって歯根2本の再治療をして、歯の痛みがとれたことが転機になったと思います。脚の方も痛みは残っていましたが、死にたいほどの痛みからは、はるかに軽くなっていました。長距離は歩けませんが、杖をついて外出できましたので、ウロウロしてしまいました。後で、しっぺ返しが・・・痛みが取れた以外にも、付け方によっては仮歯が外れないということを経験したのも、大きかったと思います。今年の我が家のノウゼンカズラは、どうしてこんなにと不思議なほどたくさんの花を付けています。一日花なので、毎日花柄がたくさん落ちて、勿体ない感じです。車の屋根にも一杯落ちます。車に花かんざしをさしたままで運転しています。

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