憧れの天山北路 2 

  
                                                   
                                    オペラ”蝶々夫人”が上演中!
 
 
                 憧れの天山北路」 
 
                      2  ごちゃ混ぜの統一感
 
    
    その日は、チェックインには時間が早すぎた。荷物をホテルに預け、ホテル周辺のビシケク
 
   の町をぶらぶらする。
 
    この町はキルギスタンがソビエト連邦に統合されたとき、ソビエト政府によって新しく作られ
た町だ。完全に区画整理された人工的な佇まいをしている。古い建物、遺跡などというものは
 
ない。その後、ソビエト連邦から独立して十五年程(2006年現在)経っている。しかし、人も
 
も、その外観も中味も、私達に判るほど急には変われないのだろう。アジアの資本主義の
 
チャンピオンのような国からやって来た私達には、立ち寄った国立美術館などの職員の応対
 
は、社会主義時代そのままに旧態然として見えた。
                                      
 
 人は親切で優しい。慌てる事もなく、のんびりしている。良い意味でも悪い意味でも焦りが
 
ないようなのだ。四年前ロシアで同じような印象を受けた。二十五年前に中国で感じたのと
 
よく似た印象でもあるが、それとは少し違う。概して、アジア人は良くも悪くもチョコチョコとよく
 
働き、落ち着かないように私は思う。キルギスタンは、東洋と西洋、さらに北国と南国が交錯
 
するところだ。東洋系の顔、西洋系の顔、北方系の顔、南方系の顔、その混血の顔。様々な
 
民族、人種(民族は文化的違いでの、人種は自然的特徴の違いでの分類)が住んでいる。
 
大地の真ん中に位置するからか、数多くの文化的人種的交錯の影響なのか、東洋系の人も
 
東アジアや東南アジアの人とは違ったおおらかさ、率直さがあるように感じた。
 
 キルギスタンで出会った人の中で、一番こせこせと忙しかったのは日本語の通訳さんだ。
 
日本人の悪しき影響かと思うと心苦しいものがある。
 
 高級百貨店と地図に出ていたデパートにも行ったが、おっとりと穏やかで、売らんかなの
 
雰囲気は皆無だった。店員は静かでさえある。トイレで料金を払い忘れたとき、担当のおばさ
 
が、しかめっ面でブツブツ言ったくらいだ。日本では公衆便所で料金を払う習慣がないので
 
つい忘れる。料金というより、掃除をしたり、ペーパーの補給をしたりする係の人へのチップと
 
いうことのようだ。道理でブツブツ言う。入り口のテーブルに現地の人は日本円にして三十円
 
から六十円くらいを置いていた。それを見習う。
 
 
 
 キルギスタンは、外務省のランク付けでは、かなり危険な国ということになっている。服装も
 
目立つ派手な色は控え、地味なものにというアドバイスだった。天山山脈の北側は、さほど
 
心配はないが、南側は国境もあってないようなもの、行くのを見合わせた方が良いという。
 
日本人の拉致殺害があったのも南側だ。状況次第で行けるようなら行きたいが、今回は北側
 
だけのつもりだ。
                                   
 
   現地に降りたってみると、まったく違った。空気が乾燥しているせいか、明るい派手な色が
 
映える。女の人の派手な綺麗な色の服が目に焼き付く。外務省のアドバイスどおり地味な色
 
の服を用意してきたのが、バカみたいだった。国民の八割が回教徒で、信仰が廃れていない
 
聞いた。宗教が生きている国は人心が穏やかで、治安が良いような印象を受ける。この
 
例外ではなかった。
 
 ホテルのボーイの話だと、日本人客はほとんど見かけないという。数年前の日本人拉致
 
殺害事件が尾を引いているようだ
 
 
 お昼もとっくに過ぎ、お腹が空いていた。朝の機内食から何も口にしていない。
 
 とりあえず、デパートのレストランに入った。注文に一苦労する。異文化圏の言葉の通じな
 
ところで一番困るのが食べ物を注文するときだ。旅行書を読んできてはいるが、実物を見た
 
事がないので、メニューを見ても、なかなか想像がつかない。英語のメニューがあったとしても
 
文字だけでは材料と調理法が解るくらいだ。まして、ここではロシア語かキルギス語だ。
 
チンプンカンプンだった。
 
 たいてい私は客席を一巡して、他の人が食べているもので良さそうなのを見つけ、ウエイト
 
レスをそこまで連れて行って指さして注文する。このときは食事時ではなかったので、食事を
 
する客はいない。友人と首をひねりひねり、適当に注文した。私達に食べられるものが、
 
どれくらいあるだろう。多い目に注文した。
 
 キルギスで初めての食事だ。どんなものが出てくるのか、期待と諦めが交錯する。友人と
 
二人、かしこまって待つ。
 
 美味しかった!
                                                                                                                                                                    これはデパートのレストランではなく、5つ星ホテルのものです。
 
 パン、トマト、ジュースの類はとくに美味しかった。他のものも不味いと感じるものはない。
 
この後、どこで食事をしても、田舎の大衆食堂のようなところでも、あっさりとした素朴な味で、
 
なにもかもが美味しい。なかでも、パン、小麦粉製品には格別の味わいがある。小麦粉自体、
 
材料自体が良いのではと感じる美味しさなのだ。トマトや、他の野菜、果物、ジュース、
 
すべて、薄味というのとは違う、水くさいというのとも違う、しつこくない、水っぽい味である。
 
友人はパンとトマトに惚れ込んだ。私はパンはもちろん、サクランボジュースとラズベリー
 
ジュースも気に入った。サクランボジュースは甘くなくて、何杯でも飲める。町中のレストラン
 
注文すると2000㏄の紙パックで出てくる。ロシアで飲んだサクランボジュースも、こんなに
 
あっさりはしていなかった。ラズベリージュースは日本でも飲めるが、高価だ。ここでとばかり
 
思いっきり飲んだ。
 
 農作物の栽培方法が違うのだろう。農薬は勿論、化学肥料なし、天然の肥料もむやみとは
 
施されていない、そして太陽の光は思いっきり吸い込んだ土地に育った野菜の美味しさ。
 
収穫した小麦は天日干し、パンのイーストも天然、当然の美味しさなのだ。私以上に感動した
 
友人と二人で、そう独断する。
 
 羊の肉にも、まったく臭みがない。こんなに美味しい羊の肉は初めてだ。中国やトルコでも
 
食べたことがあるが、それとも違う。もっとあっさりしている。シシカバブのように焼いたもの
 
だけでなく、肉じゃがのように野菜と煮たものも、まったく臭みがなく柔らかい。これも、飼育
 
方法、飼料が違うためだと、二人で勝手に納得した。
 
 羊は、なだらかな山麓で放牧されている。深い真っ青な空の下、空気は透明だ。静かに草を
 
はんでいた群れは、珍しそうに眺める友人と私を威嚇するかのように、じっと睨み返す。
 
 こんなにあっさりと水っぽく美味しく感じるのは、空気が乾燥していることも一つの要因かも
 
知れない。
 
 これに比べると、日本のパンも野菜も肉も不味くはないのだが、しつこいのだ。味がありすぎ
 
るというのだろうか。本来の野菜の味、肉の味はこんなふうだったのだろうか。日本では、
 
有機栽培で育てられた野菜、新鮮な野菜は“甘くて美味しい”と形容される。しかし、それも
 
また、先進国の栽培方法で育てられた、とことん品種改良された野菜の味でしかないのでは
 
ないか。野菜は“甘い”と形容するものだったのか。
 
  ロシアの田舎で食べた野菜も、こんな水っぽい美味しさだったのを思い出した。モスクワ人
 
はハウス栽培の野菜は不味いので、露地栽培の野菜を自分で育てると聞いた。
 
 キルギス人と私達では味覚もかなり違う。サクランボを口にしたとき、私には甘みが感じら
 
ないのに、通訳さんは甘くて美味しいでしょうと言う。サクランボジュースがあっさりしている
 
は、サクランボそのものが甘くないからだと知った。だが、キルギス人は、きっと甘いと感じ
 
いるのだろう。
 
                                                                         
 夕方、ホテルにチェックイン。
 
 部屋は七階建ての五階。緯度が札幌と同じくらいなので、初夏のこの頃は遅くまで明るい。
 
窓のカーテンを開ける。町並みの後ろ、すぐそこに、万年雪を頂いた山脈が屏風のように聳え
 
ていた。「遙々と異国に来た!」 実感が湧く。
 
 室内の装飾もシルクロードの国の雰囲気が溢れていた。キルギスの風景画二枚と民族衣装
 
の少年の肖像画が壁に掛けられ、ベッドの頭上の壁にも絨毯のような織物が飾られている。
 
色鮮やかな抽象模様の織物は、この地方独特のもので、ベッドのカバーランとお揃えだ。
 
この誂えだけで、異国情緒が満喫できた。
                              
 
 廊下、喫茶室、レストラン、宴会室、ロビー、ロビーのトイレ。ドアボーイ、ウエイトレス、
 
ホテルの従業員。すべてに、中央アジアのシルクロードの国、文明の交錯する所という印象
 
が溢れている。西洋的でもあり、東洋的でもあり、中近東のようでもあり、エジプト的でさえ
 
ある。床の模様、カーペットの模様、壁の模様、シャンデリア、ランプ、衝立、生演奏の音楽、
 
楽器、なにもかもに、ごちゃ混ぜの統一感がある。
 
 私達は、東洋第一の文明国、お金持ちの国、日本から遙々やって来た客人として、憧れと
 
尊敬を持って歓待された。
     
 
                                                 つづく
 
 
 
 
 
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憧れの天山北路 2  への11件のフィードバック

  1. ぷち より:

    こんばんは・・・(^-^)本当に今の私たちは、野菜本来の味がわからなくなっている気がしますね・・・硬そうな地鶏が美味しかったり、野生のトマトがびっくりするほど甘かったり・・・そんなことに感動すること自体がなんだかおかしなことなのかもしれません。キルギスって・・・でもごちゃ混ぜの統一感が、とってもおしゃれな雰囲気になっていてこんなに素敵なところだなんて知りませんでした・・・(#^^#)

  2. たんぽぽ より:

    お料理がおいしかったのは、本当によかったですね!それだけでもいい思い出になりますよね。室内がすてき。行ってみたいです。

  3. sakura より:

    おはようございます。海外に行くと皆のんびりしていますよね。25年前に中国に行かれた事があるのですか?日本人はせっかちだと思っていましたが、中国から帰国した時には、日本がとても静かな国に思えました。海外に行くと視野が広まっていいですよね。これから色々な国に行ってみたいです。ハウス栽培の野菜で育った私は野菜本来の味、素材そのものの味はきっと味わったことがないと思います。素材の味がする料理が一番贅沢ですよね。

  4. hulala より:

    エキゾチックな雰囲気が優しいですね。洗面の鏡の縁どりもすてき。聖徳太子の頃はあちらのほうからも日本へ渡ってきた人もいたと聞きます。まじりあった美しさがありますね~。

  5. さんぽ より:

    10カ国以上の旅行をしましたが ここに似ていると云えない風景や雰囲気が興味津々です。ベットと壁の織物の色が素敵ですね。海外に行くと 日本人の忙しないのがほんとに分りますよね。自然と遊ぶのが下手な人種みたいに感じます。

  6. ひだまり☆☆ニコニコ より:

    白い花さん、おはようございます^^(*^o^*)オ (*^O^*)ハ (*^。^*)ヨー!!白い花さんの旅レポを読んでいると、とっても羨ましくなってきます。ひだまりもお出かけして一番の楽しみはご当地での食事です。白い花さんも美味しい食事に出会えて、よかったですねっ^^ひだまりも大部屋でもOKですが、写真のようなその土地の情緒がたっぷり詰まったお部屋にも泊まってみたいです。子供の頃食べた、りんごやみかんの味が好きです。「甘酸っぱい」と表現できる味です。最近は甘さだけを追求して自然の味が失われてきていますよね。アップルパイを作る時、酸味のある「紅玉」を探します。作る前にそのまま食べちゃうこともありますよ(^^;

  7. Misa より:

    こんばんは☆知らない場所のレポがこんなに楽しいなんて!特に食べ物のお話…へええええと唸ってばかりです(^-^)日本の野菜は人工的なのですね。食べやすさや育てやすさ優先で、本当の味がしなくなっているのかも。今の子供はにんじんキライの子が以前に比べて少ないそうですよ。にんじんの香りがしないから、なんですって。ピーマンも同様。苦味を少なくしました、って。。。さくらんぼジュースと、ベリーのジュース!飲んでみたいなあ。さっぱりとしていて、とっても美味しそうです。ホテルも情緒あふれていますね。いろんな文化の交差点、また次回も楽しみにしています!

  8. じばこ より:

    本当に、言葉が通じない所に行かれた白い花さんて、何者なんでしょう~?まだ、体に不安いっぱいあった時期にです。。。尊敬以外、言葉に出ませんね。御家族と行かれたんじゃなくて、友人と2人旅なんて、私たち年代_そんじゃそこらの人間が出来るもんじゃありませえん。とっても楽しそうで、のびのび旅をされて、それで、身体が良くなって行ったんだなと分かりました。見習わなくてはなりません☆(*^-^*)v

  9. パンチ より:

    ついにキルギスタン入国ですね余り知らない国だけど、食べ物が美味しい国のようですね、外国行ったことないけど。

  10. 乙女 より:

    言葉も通じない国へお友達と二人でフリー旅行する白い花さんの行動力には脱帽します。身体も本調子じゃなかったでしょうに不安はなかったのかなぁ~食事にしてもツアーとは違った楽しみもあったみたいで、どんな料理が出てくるのかハラハラ・ドキドキで待っている間は愉しかったでしょうね^^私には出来ないノビノビとしたいろんな経験を聞くのは楽しみです。続編を待っています\(^o^)/

  11. 白い花 より:

    コメント有り難う御座ました。私が子供の頃のトマトって、すごくトマト臭くって、大嫌いだったのですが、最近のトマトはトマトの匂いも味もしないので、苦にならずに食べています???野生のトマトがあるのですか。そして甘いのですか。知りませんでした。ピーマン、人参、リンゴ、本当に野菜や果物は、どこまでいくのでしょうねって感じですよね。牛肉も日本の上等の肉は、もう自然の肉じゃあないですよね。美味しいけれど・・・私の基準では、言葉は通じなくてもキルギスは比較的安全な国なのですよね。それに、物価が安いところはタクシーや車をチャーターしても、私でも払える金額なので、脚が悪くっても、体力がなくっても、なんとかなるのですよね。これが、アメリカとか、南アフリカとか、中東とかになると、お金もだし治安も不安で、こんな旅行はできないと思います。一緒に行った友人が味を占めて、帰りの飛行機の中で、次は南アフリカへ行こうと言いだしました。でも、ちょっと怖いから駄目と答えました。キルギスから聖徳太子は日本に来たとか、キルギスの人も言っていましたよ。だから、聖徳太子はミルクを飲んだんだとか。キルギスが、なんとなく懐かしい気がしたのは、だから? ロマンがあってこういう話は尽きないですよね。日本人も忙しいですが、中国やインドはもっと騒がしくてすごいようですね。インドは行った人の話を聞いてだけで、どっと疲れて、とても自力では無理だと思いました。写真が綺麗なところばかりを撮しているので、素敵に見えますが、汚いところなどなど色々ありましたよ。(あったりまえですよね・・・)でも、すごくエキゾチックな感じだし、自然は綺麗だし、また行きたいところです。

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