憧れの天山北路 5 

 
             
 
 
                      「憧れの天山北路」
 
            5  イシク・クルに到着
 
 イシク・クル湖畔のホテルに着いたのは夕方だった。
 
 ホテルはソ連から独立後に建てられたものらしく、真新しい。ビシケクのハイアットホテルも、
 
このイシク・クル湖畔のホテルも、広い庭園の中に建物が建っている。大きな門には門番が
 
いて、出入りするすべての人と車を検問していた。ビシケクのハイアットホテルでは探知機の
 
ようなもので車の中、トランクの中も調べた。かなり厳重だ。検問が終わると、門番と運転手、
 
通訳さんは手を握り合う。それが挨拶らしい。門番が女の人の場合、握手はなかった。
 
 門から建物の玄関まで、花壇に草花が咲き誇る。薄緑の葉と色とりどりの花は触れると消え
 
てなくなりそうだ。可憐に震える。高地だからか植物の色が淡く優しい。水で洗い立てのよう
 
一点のくすみもない。おとぎの国に迷い込んだような錯覚を起こしそうだった。
 
 庭に続く湖の岸はホテルのマイビーチだ。夏の避暑地としては申し分ない。イシク・クルは
 
塩湖だから金槌でも浮く。
                            
                               ホテルのマイビーチ。ベンチと三角の傘。
 
 ホテルの人は、同じ地球人かと疑いたくなるほど人の良さそうな優しそうな、穏やかな笑顔
 
で迎えてくれた。庭の植物同様、異次元へタイムスリップしたような、日本では決して感じる
 
ことがない純粋さを感じさせる。やっぱり英語はまったく通じない。こちらも、すっかり異次元人
 
なった気分で、にこにこ微笑むしかない。
 
 キルギス人はキルギス語、ロシア語、ウズベク語(最後のは聞き間違いかも。とにかく3カ国語
 
の三カ国語を話すらしい。横で聞いていて言葉を換えたのではと、たまに気づくことはあるが
 
何を言っているのか見当もつかない。知らない言葉というのは、こんなにも解らないものかと
 
感慨深くさえある。これからすれば中国語はまだ理解し易い。横で聞いていると、なんとなく
 
解ることもある。英語などは、すごく解っているということになる。
 
 この辺は変わりやすいお天気で、一日に何度も雨が降る。夕立の後、久しぶりに虹を見た。
 
遮るビルもなく、空が大きい。虹も大きな孤を描く。キルギスタンに来たのではなく、虹を見て
 
喜んだ幼い頃に帰って来たようだった。
                               
                            湖の向こうに見えるのが天山山脈です。山頂の白い万年雪の上には
                             必ず白い曇があります。雪解けの蒸気が曇になるのでしょうか。
 
 夜、真っ暗な空から今にも落ちてきそうな、満天の星を期待していた。月明かりもなく絶好の
 
星ウオッチング日和だ。六月も終わりの初夏なのに、Tシャツにウールのカーディガンだけで
 
は寒い。ブランケットを体に巻いて外に出た。
 
 残念だ! ホテルの庭はライトアップされていた。それでも、日本の我が家に比べれば遙か
 
に多くの星が輝く。ながらく都会では見たことのない天の河も見える。が、降り注ぐような、
 
手が届きそうな、畏怖を感じるほどの、私の期待する星ではなかった。ライトアップの光がな
 
い湖の岸辺まで行けば、きっと期待通りの星が見えるだろう。だが、ホテルのマイビーチとは
 
言え、人っ子一人いない、月明かりもない真っ暗な小道を、一人で砂浜までは怖い。行けなか
 
った。友人は疲れて熟睡している。闇夜に波の音は不気味に響く。不審者なんていない、
 
安全だと、昼に通訳さんは当然のように言っていた。が、無理だ。このホテルは、敷地の周囲
 
すべてに塀があるわけではない。侵入しようと思えばできる。せめて足下を照らせる懐中電灯
 
を持っていれば行けたかもしれない。そう思ったが、負け惜しみに過ぎない。人を見れば泥棒
 
と思え精神が叩き込まれている。
 
 それにもまして、なにより自然は恐ろしい。私は先進国の都会人だった。
 
    
 
 翌日は、イシク・クル北岸の天山山脈のクンゲイ・アラ・トーの山麓へ車を走らせた。
 
 湖の南北両岸を走る天山山脈は標高四千から六千メートル。頂きに万年雪を白く輝かせ
 
勇壮に連なる。麓のなだらかな斜面には、山羊の群れが放牧されていた。冬はかなりの寒さ
 
しく、それに備えて厩舎ならぬ山羊小屋が点在していた。
 
 ここでも、お金を出すとゲイトから更に上の方まで車で登れる。片側が白い泡の急流、
 
もう片側が切り立つ崖。急流と崖に挟まれた車一台がやっと通れる山道を行く。道沿いの
 
き地に観光客用のパオが建つ。空き地といってもパオ一つがやっと建つ、ごろごろした岩だ
 
らけの土地だ。そこで食事ができる。パオの外にも小さなテーブルが置いてあった。
 
 麓は背の低い草ばかりだが、山の中腹には高い木が茂っていた。木々の緑が清らかで、
 
私達の心を洗う。濃い緑ではなく淡い黄緑だ。日本の新緑よりも、もっと柔らかくて優しい。
 
弱々しいのではない。写真を撮ってはきたが、その優しさを切り取ることは不可能だった。
 
 観光客に写真撮影用の馬とロバ、鷹を貸していた。枝の垂れた天山樅の新緑と、氷河溶け
 
白い泡のような急流をバックに写真を撮る。友人は馬を怖がるのでロバの横に立ち、私は
 
片手に鷹を掴まらせ片手に手綱と鞭を持って馬にまたがる。鷹を腕に乗せたのは初めての
 
経験だった。鷹に翼を大きく広げさせるためには、腕を小刻みに回すように動かして、鷹の
 
足場を不安定にしなければならない。フェルトの手袋を貸してくれたが、その上からでも鷹の
 
爪が肌に食い込んで、痛さは半端ではない。
 
 都会人は肌が薄くて柔らかいと、鷹匠がさもおかしそうに笑う。
 
 半日、私の腕には爪の痕が赤く残ったままだった。
 
              つづく
           氷河溶けの白い泡のような水が流れています。枝の垂れた木が天山樅です。
          色が濃く写っていますが、実際はもっと薄い黄緑なのですが・・・
          川の水の白に合わせるとこうなります。
 
 
 
  しばらく間が開いてしまいました。申し訳ございません。それと写真が、ほとんど人物入りの
 
記念写真で、このブログにアップできる良い写真がなくて残念です。
 
引き続きよろしくお願いします。
 
 
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憧れの天山北路 5  への13件のフィードバック

  1. とんび より:

    シルクロードを旅されたのですね都会人であること 実感されましたか!

  2. Misa より:

    こんばんは☆笑顔は全世界、全宇宙の共通語なのでしょうネ。私も本当の闇の中に自分を置いたことがあるかな…と考えて、多分ないです…記憶の限り。鷹を片腕に手綱を取る白い花さん、きっと凛々しいのだろうなあ~(^-^)緑の木々の色がとても深いですね!

  3. hulala より:

    白い花さんの実行力はすごいですね。鷹を載せた時は鷹匠が撮影をしてくれたのですか。写真は少なくても細かな描写が自分もそこにいるように思えています。文章が素敵です。

  4. あきな より:

    お久しぶりで~す^^緑が多くて景色がステキなところですね。鷹を腕に載せたなんて 凄い経験ですね!!

  5. パンチ より:

    ヨーロッパのような風景ですね

  6. САБУРО(サブーラ) より:

    u-nn,キルギスの現状は難しいですね。資源的には基本的なスタンスとして観光立国化せざるを得ない事情があるものの、そこまでの国家的整備や経営ノウハウが未だないため、割り切って旅行しないとギャップを感じるだけですし、・・・・・・。満天の星空を期待されたのは非常に理解出来ます。もう30年近く経ちますが、私が初めて従兄弟と一緒に北アルプスの薬師岳に登った時の晩に山小屋近くで見た星は、まるでプラネタリウムを見ているようで、この記憶は忘れることはありません。あの時は、本当に自然の美しさを実感しましたから。また、続きを楽しみにしています。(^^)

  7. ぷち より:

    こんにちは・・・(^-^)片手に鷹をのせ馬の手綱をとる白い花さん、勇ましくて素敵だったでしょうね!!拝見したかったです・・・(#^^#)降り注ぐような星空を見られなかったのは残念でしたが、素晴らしい自然の風景は十分に伝わってきます・・・続きが楽しみです。

  8. たんぽぽ より:

    鷹・・・私は怖いな~(^_^;)いい経験ができましたね。鷹の爪は本当に痛そうですね(>_<)写真がどれもすてきです♪

  9. booo より:

    1枚目と2枚目の空の感じ、幻想的でキレイなショットですね!ホテルのマイビーチなんて、オシャレだなぁ~。。。異次元へのタイムスリップって夢かと思ってたけど、ちゃ~んと可能なんですね!でもって鷹を腕に乗せたなんて、カッコイイじゃないですか!(・∀・)/充実した旅になったようですね!

  10. main より:

    清々しくなる風景ですね、金づちが浮くって すごい塩分濃度の高い湖なんでしょうね。惜しむ無くは「満天の星」観たかったでしょうね。自然というか「宇宙」を感じられたはず、私達の住む地球の奇跡も。素晴らしい旅です、改めて「文明」って何?と考えさせられます。

  11. 洋子 より:

    美しく優しい異世界のようだったのですね。文章がお上手なので、中に登場してくる見たこともない色々なものの雰囲気が伝わってくるようでしたよ。

  12. ミッキー・フォール より:

    イシク・クル、すてきなところですね~!広さは琵琶湖の9倍、透明度はなんと20mだそうです。w湖底遺跡や凍らない謎など、神秘的な湖ですよね。青い屋根の洋館や、チャイナローズでしょうか? いい雰囲気に撮れていますよ~♪

  13. 白い花 より:

    皆様たくさんのコメント有り難うございました。鷹を右腕に、左手で手綱を持った馬上の写真、お見せしたいところですが、通訳さんにお願いして、私のデジカメで撮って貰った写真は、変なショットになってしまいました。デジカメなんて、キルギス人には初めてのもので、巧く操作できなかったようです。友人が撮ってくれたのはまあまあですが、アングルが悪くて・・・残念です!鷹を持たずに馬に乗っているのは、友人が格好良く撮ってくれていました。その年の暑中見舞いに使いましたよ。昔の馬仲間が、様になっていると誉めてくれたので、にんまりです。星は本当に残念でした。またどこかで、観たいと思っています。湖面の色は、本当に綺麗でした。両岸を天山山脈に挟まれているというのが、なによりの素晴らしい眺めを作っているのだと思います。異次元へのタイムスリップができるのが、旅の醍醐味ですよね。中国でもそれは感じましたし、ロシアの田舎では、まるで中世の時代に入り込んだような気がしました。また、そんなことを感じられるところへ行ってみたいです。でも、体力気力がないと駄目ですね。若いうちに行かないと!笑顔は万国共通のパスポートですよね。こんな素人の文章で、旅のお裾分けができれば嬉しい限りです。読んで下さって、有り難うございます。

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