歯科治療9年の苦労ばなし  64  

    

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  今日の写真は、近くの河原で孫達とバーベキュウをしたときに撮りました。セイタカアワダ
 
チソウと葛の葉をバックにシャボン玉を飛ばしました。
 
 歯の方は、月曜日に歯周科へ行ってきました。新しい先生の初めての診察なので、どんな
 
方かドキドキでしたが、前の女医さんの説明通りの人で、優しく静かに話しをなさる方した。
 
予約はできる限り補綴科と同じ日にして下さるそうです。次回も補綴科と同じ日には、空きの
 
時間がなかったのでしょうが、昼休みの12時に入れて下さいました。
 
 今回は第一章 ”17 歯を抜く” です。

                   

      

           「歯科巡歴の記―歯科からの帰還」
 
  
      第一章  二人目の主治医
 
            十七  歯を抜く
 
 救急のときの対応に不満があった。苦情係だと紹介された歯科医の返答は、医者中心の
 
考え方にしか私には受け取れなかった。あげくに「僕は苦情係ではありません。あなたは他の
 
人の時間を盗んだのです」と言われ、沸騰した蒸気が頭のてっぺんから吹き出しそうなほど
 
腹が立った。涙を堪えて診察室をあとにする。
                               
 
 聞いて欲しくて、家に帰るのを待てずに病院から友人に電話を入れた。友人宅は病院から
 
車で五分。電話でも話はできたのに、すっ飛んで来てくれた。
 
「良かったのよ。腹が立って。今までも、もっと怒らんとあかんかったのよ。
 
あと二日後に主治医の予約でしょ。怒りを持ち続けときや」
 
 なんと巧みなアドバイスだろう。友人の賢さに感心した。最初の目論見どおりにガス抜きが
 
できたと喜ぶべきなのだ。以前から友人は、同じことの繰り返しになったとしても診察のたび
 
に症状や要望を強く訴えるべきだと、アドバイスしてくれていた。しかし、歯の痛みが続く頃は
 
私にその元気がなかった。歯の痛みも脚の痛みも治まって、体調も回復してきた去年の暮れ
 
ぐらいから、ようやく気力も回復してきたような気がする。
 
 二人で食べたお好み焼きが美味しかった。興奮を静めるためには空腹では駄目だと思った
 
のだろう。私が硬いものを食べられないのも、お好み焼きが好物なのも知っている彼女
 
気配りが嬉しい。いつもは食べるのが苦痛で無理に口に食べ物を入れていたが、久しぶり
 
楽しい食事だった。
 
「帰り、気を落ち着けて運転してね」
 
 そう言って見送ってくれたが、帰りの運転は危なっかしくて自分でも恐ろしいくらいだった。
 
 後日、彼女が話してくれたことだが、私の電話の声が今まで聞いたこともないほど興奮して
 
半泣きだったと言う。このまま帰らせたのでは交通事故でも起こしかねないと、三000CC
 
バリバリマシーンで飛んで来てくれたのだ。
 
 
 
 主治医の予約の日が来た。
 
「今から歯を抜きます」
 
 えっ!
 
 なんの前置きもなく、唐突に切り出すので面食らった。
 
 私は前回の主治医の説明では納得していなかった。抜く原因をまだ聞いていないのだ。
 
歯が割れていないのなら、抜く必要はないはずだろう。
 
 しかし、先日、救急で治療してくれた歯周科の歯科医が歯を見て、穴があいてヒビが入って
 
いるから抜くしかないと教えてくれた。救急の歯科医が嘘を言うわけもない。ほぼ諦めは付い
 
ていた。
 
「僕がここで抜いても、良いですね」
 
「ええ……」
 
「麻酔をします。少しチクッとしますよ。麻酔が効くまで、このまま待って下さい」
 
 主治医は手持ちぶさたのように無言で椅子に腰かけている。今日の診察ではすることが
 
たくさんあるので、話をする時間はないと思っていた。今、言っておこう。
 
「あのう、先日、救急で診ていただいたときの先生が、カルテに歯が割れたと書いてあると
 
仰っていました。ポールが折れたというのはお聞きしましたが、歯が割れたというのは
 
知りませんでした」
 
 一瞬、周りの空気が静止したように雑音が消えた気がした。私の声が近くの歯科医や患者
 
に届いたのだ。
 
「僕、そんなことカルテに書いていますか?」
 
「私がカルテを見たわけではありませんが、他の先生三人が御覧になって、そう仰いました。
 
治療して下さった先生は歯の中を御覧になって、丸い穴が開いてそこからヒビが入っていると
 
仰いましたが・・・」
 
 空気が潮を引くように後ずさりして、ぽっかりと真空の空間ができたみたいだ。私の周囲は
 
静かだった。主治医は後ろのカウンターまで行ってカルテをめくる。しばらく無言でその場に
 
立っていた。やっと、透明人間になりきれずに出してしまったというような薄いかすれた足音
 
で診察台に帰ってきて、声にもヒビが入ってしまったような濁った響きで言った。
 
「僕は、歯が割れたという認識はありませんでした。ポールが折れたという認識でした」
 
「……」
 
 二つ向こうの診察台で、苦情係ではないと怒った歯科医が他の患者を治療していた。こちら
 
をチラと見た。さっきから気にしているようだ。ときどき手を止め振り返る。目が合いそうに
 
なると視線をそらす。
                                              
 
 教授の言葉になんと返答して良いのか、とっさに言葉がみつからない。自分の正直な気持
 
を伝えることにした。
 
「割れていたとしても、別にそれがどうとも思っていませんが、他の先生からお聞きしましたの
 
で驚きました。あまり良い気がしませんでした」
 
 主治医はプイと首を九十度ねじって、顔だけ横に向けた。まるで子供の仕草だ。そっぽを向
 
て黙っている。
 
「穴があいて、ヒビが入ってしまったのですか? それで抜かなくてはいけないのですか?
 
あの……」
 
 診察台の上でいくら私が体を捻って主治医の方に顔を向けても、相手が顔をそむけたまま
 
だから、私が勝手にひとりごとを言っているみたいだ。話す気がしなくなり、途中で言葉を切っ
 
た。
                                                       
「麻酔が効きましたので抜きます」
 
「はい」
 
「痛いですか?」
 
いいえ。首を振って合図をする。
 
「抜けかかっていますので、このまま抜きます。痛いですが、我慢して下さい」
 
 歯は抜けた。それほど痛くはなかった。
 
 どうせ抜いたのだから、どうでも良いと言えば良いのだが、いったい歯は割れているのか
 
いないのか。このままでは真相は分からない。
 
 そうだ! 抜いた歯をもらえば良いのだ。
 
 主治医が出血している傷口の手当てをしているあいだ、いつ言い出そうかと迷っていた。
 
「たいした出血もないし、傷口も綺麗ですよ」
 
 口がきけるようになったら、すぐに頼もう。
 
 助手が道具を片付け始めた。話したいのに、なかなか言葉が出ない。早く言わなければ。
 
歯を捨ててしまったら証拠がなくなる。
 
「先生、その抜いた歯、下さいますか」
 
 やっと言えた。にこやかな無邪気な声が確かに私の耳にも届いていた。
 
「ああ、良いですよ」
 
 突然の私の申し出に主治医は驚いたに違いない。だが、なんの戸惑った素振りもなく、
 
私の声に合わすような笑顔でさらりと返事をした。
 
「歯は穴もあいていませんし、ヒビなんか入っていないですよ。
 
ちょっと上の方が薄くなっているだけですからね」
 
 作業をしながら、しきりに弁解する。さっきまでとはうって変わった明るい優しい声だ。
 
「抜くのは歯が割れたからだと思っていたのですが、割れていないのなら、
 
抜く理由はなんですか?」
 
 返事がない。
 
「同じ条件でポールを立ててもまた折れるからですか?」
 
「ああ、そうです。そうです」
 
 先に答えをこちらから言ったのは間違いだった。
 
「歯は割れていないですよ。ちょっと上の方が薄くなっているだけです」
 
 主治医はまた笑顔で弁解した。
 
 私が歯をもらうことに決まっているのに、平然と笑顔でここまで言う。嘘をこんなふうに言え
 
るだろうか。しかし、カルテには割れていると書いてあるのは間違いないだろう。救急の三人
 
の歯科医がそろって嘘を言う理由はない。そのうちの一人は補綴科、あとの二人は歯周科。
 
まったく別の部屋で別の診察でカルテを見ながら言ったのだ。こうなると、ますます、歯を自分
 
で見て確かめないことには気が済まない。
 
「はあ……」
 
 主治医の言い訳には、そう返事するしかなかった。ここで揉めて時間を取ると、治療時間が
 
足りなくなる。時間が足りなくなったら、残りの作業はまた一カ月待たなければならない。
 
歯をもらうことになっているのだ。あとで歯を見れば分かるのだ。
 
                                                
 
 この診察室では大勢の歯科医が診察台を並べて患者を診ている。歯科医と患者をあわせ
 
ると、数十人はいるだろう。私達の周りの歯科医も患者も興味津々で耳をそばだてている
 
はずだ。それに歯科医全員が主治医の部下なのだ。こんなところで主治医が今さら自分の非
 
を認めるはずがない。私は腹が立つ以上に戸惑っていた。主治医のこの態度に、どう対応す
 
ば良いのか分からない。
 
 これ以上わだかまりが増えても困る。ついでだからクレームのことも話しておこう。
 
「あの、先日、救急のときのことでクレームを言わせて頂きました」
 
「いっぱいカルテに書いてありますよ!」
 
 私の言葉が終わるか終わらないうちに、ヒステリックな声が返ってきた。主治医は苦笑い
 
しながらカルテを片手で持ち上げ、いまいましそうに二、三度振ってカウンターの上に投げ付
 
るように置いた。カルテはページが増え、分厚くなっているように見える。これほどまでに
 
憤慨するのだ。いったい何が書いてあるのだろう。
 
このとき、私はまだ、この部屋の人事の事情を理解できていなかったのだ。
 
                             つづく 

 

 

 

 

 

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歯科治療9年の苦労ばなし  64   への10件のフィードバック

  1. sakura より:

    おはようございます。毎回大変な思いをしているのですね~お友達の優しさが嬉しいです。歯にひびがいっていないのに抜歯したのですか?納得いくまで説明をしてほしいですよね…

  2. パンチ より:

    遂に抜歯になりましたね・

  3. じばこ より:

    しゃぼんだま゜。。゜すてきだわ。。゜♬本題の重苦しい頃と、今の快方されつつある違いが伝わって来ます^^抜歯した歯に、ひびが入ってなかったのに、この歯医者の明るい態度、変ですね~電話の声で飛んで来てくれる友人、、、なかなかいないと思います。常日頃、お友達を大事にしている積み重ねなんですね(*^ー^*)遠い道のり、二日後にも診察。。。運転して来られたんですよね~私なら、メロメロになって~、寝込んでいると思います。この後も、恐ろしそうですね–;

  4. booo より:

    本当の友達って、いつのときも有り難いですね!(・∀・)ちょっとまた話はそれますが、もしかして例のフォントの問題かと思ったので書きますね。「このまま帰らせたのでは交通事故でも起こしかねないと、」 の後の文字が三000CC  になっています。 あくまでも自分のパソコンで見ての事です。おそらく、白い花さんは、 3000CC と書いたつもりだと思うのです。例のフォントの変更の問題で 三000CC と表示されているのなら、白い花さんが気がついていないのかも? と思いまして、書きました。 参考になればいいのですが。

  5. Unknown より:

    歯の問題があるなかでも、飛び上がらんばかりのいい友がい、シャボンダマをする喜びを伝えてくれる、幼き友が居り、ほんとは、とっても幸せなんだよねぇっていったら、怒りますか??バラの花の中に、イバラをみつけるのでなくイバラの中にバラがあるのをみつけるそんな、あなただと思っております  デス。ハイ

  6. hulala より:

    こんばんは動かない植物に動く昆虫がいる。写真が元気になりますね。

  7. Misa より:

    こんばんは☆お友だち。。。本当にいいお友だちをお持ちなのですね。一緒に召し上がったお好み焼きの味、きっと本当においしかったことと思います。抜糸のくだりも、まるでドラマのようで、息を飲んで拝見しました。一体どうなっていくのでしょう。歯を抜くことって、すごいことですよね!?もう二度と生えて来ないのだから。急に今日抜きますって、お医者さんは簡単に言っても、お医者さんにとっては日常でも、自分にとっては本当に大変なことですよね。それだけでも、もう考え方の違いがはっきりしているような…人事の事情が、医療現場に反映されているなんて!恐ろしいです。。。

  8. 乙女 より:

    毎回ハラハラドキドキの展開がまるで小説を読んでいるようだわ。抜歯した意味が良く分からないけど抜いたらお終いになるとでも思ったのかしら。でも良いお友達がいて救われたわね。次回も何か恐ろしいことが起こるのかなぁ~明るい希望が見つかるといいね。

  9. abend より:

    納得のいく治療って難しいですよね。説明も大切だけど 簡単に済まされると戻らないのだからいやですね

  10. 白い花 より:

    皆様、コメントを有り難うございました。連休ボケで、スタートが遅れています。記事の内容は、ますます、我ながらこれが現実だろうかと思うような展開になってきました。”事実は小説よりも奇なり” です。だから書かずにはおれなかったのだと・・・これは2007年のことです。歯の痛みも脚の痛みも泣くほどでもなく、鎮痛剤も不要になっていて、噛み合わせの問題と、人間関係の煩わしさだけになっていました。以前に比べれば、病状は回復に向かっていたと言えると思います。仰るとおり、私は幸せに暮らしています。歯がこんなだから人生すべて不幸せだとは、ぜんぜん思っていません。以前にも書きましたが、これが子供や夫でなくて良かった、私の人生のメインステージを終えた時期で良かった、これくらいのことで済んで良かったと思っています。友人達に関しては、これほど親身になって愚痴を聞いてくれる人がいるというのが珍しいと、ある先輩に言われました。この10年程の歯のことで、自分の人生というか、生きざまが分かったような気がして、逆に幸せを感じています。ただ、この歯の件ではあまりに”想定外”?!のことの連続で、驚くというか、いったい何なんだろうという思いで、書かずにはいられないのです。思わぬ病気や出来事に出会うことは、私だけでなく誰にでもあることだと思います。なにか共感していただけるものがあればと・・・フォントのことですが、三000CCは私が故意にあの字体にしています。フォントが部分的に変わるのではなく、記事全体のフォントが勝手に変わっているのです。記事の字数の少ないものはそのままで、多いものが変わっていました。フォントの種類によって容量のカウントが違う設定になっているのでしょうね。説明していただいた通りだと思い、納得しました。有り難うございます。昨年もう治ると思ったので、このブログを始めたのですが、なかなか歯科から帰還できません。忍耐強い読者の皆様には本当に感謝あるのみです。60話を超えてしまいましたが、これからも引き続き宜しくお願いします。

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