歯科治療9年の苦労ばなし  68

 
              P1000290
 
  今日の写真は前回と同じ近所の田んぼの風景です。刈り入れがほぼ終わっています。
 
最近は刈り入れも脱穀も機械が同時にするので早いです。手で刈り入れてから脱穀していた
 
頃は、稲の良い匂いが辺り一面を包んでいましたが、その匂いもなくなりました。
 
稲穂の黄金色とあの良い匂いは、秋の実りの象徴のようで、大好きでした。今頃になると、
 
秋晴れの青空高くまで匂い立つような、稲刈りのあの匂いが懐かしいです。
 
 歯は左側上下が痛いのですが・・・予約は26日です。  
 
 今回は第一章の”21 やけくそで、お粥断食” です。 
 
                             
 
 
          「歯科巡歴の記―歯科からの帰還」
 
      第一章  二人目の主治医

 
          二十一  やけくそで、お粥断食 
 
 
 主治医に割れた歯を見せたが、それは抜くときに割れたもので、それくらいなら抜く必要は
 
なかったと矛盾した弁解をする。ヒビの入った歯を見ても、ヒビは入っていないとまで言った。
 
 
 
 東の窓にも南の窓にもサーモンピンクの分厚いカーテンをピッタリ引いて、ベッドに潜り込
 
んで二日が過ぎた。裏にゴムを貼ったピアノ音遮断用のカーテンだが、春も盛りなのに凍っ
 
た風は容赦なく耳に迫る。私の心は凍てついて解ける兆しもない。頭と体、手や足は茹だっ
 
たように重くて暑い。鈍い暑さは体の中心目がけて凝縮し、熱く固まる。
 
 あの主治医は本当に、この抜いた歯のヒビが見えなかったのだろうか。そんなことがあり
 
るはずがない。他の歯科医、私の友人、夫、もちろん私にもそれが見える。その歯には
 
ちょうどドリルの先が突き抜けたくらいの丸い穴が開いて、その穴の端から真っ直ぐにヒビが
 
走っていた。
 
 わずか一メートルも離れていない私の目の前で、主治医はその歯を掌に載せて眺めたの
 
平然と言い放ったのだ。「穴は開いていますが、ヒビは入っていないでしょう?」お愛想笑
 
の微笑みさえ浮かべていた。
 
 三年来の主治医だ。心はますます凍り、体はますます熱を持って重くなる。
 
 右側の三本続きのクラウンは、嵌めた翌日もう外れた。ちょっとお粗末ではないか。
 
                        
 
 ベッドに潜り込んだまま、病院へ電話を入れた。
「昨日、付けていただいたクラウンが外れました」
 
「今日、来て下さい。教授はお忙しいのでできませんが、クラウンを付けるだけなら
 
他の者がしますから」
 
「体調が悪いので、今日は伺えません。十日後に予約が入っていますので、
 
その時でも宜しいでしょうか」
 
「噛めなくて、ご不便では?」
 
 丁寧な応対に遠いものを感じてしまう。
 
 外れたのは右側だが、左側も奥歯は抜いたままになっている。今さら噛めなくて不便だなど
 
という範疇の話ではない。しかし、電話を受けた若い歯科医が詳しい事情を知るわけもない。
 
「左右とも奥歯は使えなくて噛めない状態です。もう何年もまともに噛めなくて、流動食には
 
慣れています。私が不便なだけで、それ以外に不都合がないのでしたら、
 
それでも構いませんので、来週の予約の日で宜しいでしょうか」
 
「ええ、良いですよ」
 
 熱っぽいだけで、取り立てて体に故障があるわけではない。が、もう行く気力がなかった。
 
 三本続きなので、外れて飲み込み、喉に引っ掛かって、食道切開なんてことになったら大変
 
だ。気管に入ればもっと厄介だ。外してしまうと、その心配はなくなる。だが、両奥歯が歯なし
 
も同然の状態になるので、気持ちが悪いだけでなく顎関節が痛くなる。
 
 スプリントを付けると口の中が狭くなり、外れにくくなる。食事の時はクラウンもスプリントも
 
外し、それ以外は両方を付けて、なんとか凌ぐことにした。眠るときはどうしようかと迷ったが
 
そのままで運を天に任せた。
 
 どうせ、もともと両奥歯が使えないのだ。今さらどうってことはない。やけくそで断食すること
 
にした。前々から一度したいと思っていたが、なかなかチャンスがなかった。本当の断食では
 
なく、おかゆ断食という断食まがいだ。おかゆと飲み物はいくら摂っても良いことになって
 
る。三日経って普通食にもどした途端、下痢便がどっと出た。驚いたが、これは正常な反応で
 
宿便が出たということらしい。きっと良いことなのだ。体の熱が引いた。
 
                     
予約の日だ。
 
「先生、クラウンは翌日に外れました。救急で付けて下さるとおっしゃっていただいたの
 
ですが、もうここまで来る気力がなくて、そのままにしていました」
 
「ああ」
 
 気のない返事だった。自分の付け方が下手だから、すぐに外れたのだ。もっと他に言いよう
 
があるだろう。
 
「どうせなので、断食していました」
 
 本当だとは受け取っていないようだ。 
 
「今度は外そうとしても外れないくらい、しっかり付けましたから」
 
 まだクラウンを新しく作って十日ほどだ。しかも、セメントで付いていたのは半日だ。
 
しばらく使って試さないことには、主治医も納得しないだろう。医者と患者が両方納得いくには
 
時間が必要なのだ。そう自分に言い聞かせた。
 
「それと、左側のプラスチックの二本続きの仮歯ですが、奥の親知らずの端が引っ掛かって、
 
どういう訳か首を下に向けられないのですが」
 
 親知らずの仮歯は、歯の上部三分の一くらい被る部分クラウンで、前横の歯の仮歯と繋が
 
っている。歯をまったく削らずに被せているので、外れにくいようにグルッと歯の周りの横に
 
出っ張った形なのだ。それで、圧力、重さ、強さを出しているようだ。金属ではなく、プラスチッ
 
で分厚いから、なおさら嵩高い。首を前下に深く曲げようとすると、一番奥の歯上下が
 
ひっかかってつかえ、首がある程度以上は曲がらないのだ。そういう姿勢をするときは
 
奥歯上下の噛み合わせがずれて、顎の周りの歯や骨の組み合わせの形が変わらないと
 
いけないのだろう。ところが奥歯がつかえて、ずれないのだ。こんなことは初めてだった。
  
「ああ、わざとそういう出っ張った形にしてあるのですが、引っ掛かりますか?」
 
 私の一度の説明で理解してくれるかと心許なかったが、主治医はすんなりと周りの出っ張り
 
を少し削って小さくしてくれた。なんなく首を前下に深く曲げることができるようになったのだ。
 
あまりにあっけない。体の巧妙な作りに驚くばかりだ。
 
 この二本続きのプラスチックの仮歯を手直ししたのは二週間前だ。前の一本が少し減って
 
低くなっていたが、高くしてもらうのは言いそびれてしまった。
 
 最後に、今日の歯の変化に合わせてスプリントを調整しなければならない。邪魔くさそうだ
 
った。
 
 予定の一時間でしたことは、外れた右側クラウンの付け直し、左側仮歯の出っ張りの修正
 
スプリントの調整だけで、時間のかかる複雑なことはしていない。時間が残ったくらいだ。
 
主治医も気が楽なのか前回よりも機嫌が良い。診察は穏やかに終わった。色々あったが、
 
久々にほっとして病院を出た。
                          
 
 ところが、それから五日目に、また三本続きのクラウンが外れた。「外そうとしても外れない
 
くらいに、しっかり付けた」のではなかったのか。ちょっとほっとしたのに、またこれだ。まるで
 
ジェットコースターに乗っているみたいではないか。
 
嫌気がさして、友人に愚痴った。
 
「またやねん」
 
「ほんまに、どう言って良いのか。えっ! 嘘! ほんま! 嘘! やっと何とかなったん良か
 
ったなあと思ったら、また、えっ! 嘘! ほんま! の連続やもんなあ」
 
「ほんま、もう知らんわ」
 
「どうなってんの、いい加減にしてって言いたいよねえ。よう保ってる。偉いわ」
 
「うん……、ありがとう」
 
 泣きたくても涙も出ない。
 
                  つづく
 
 
 
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歯科治療9年の苦労ばなし  68 への15件のフィードバック

  1. パンチ より:

    毎回堂々巡りですねいつになったら終わるのだろう?

  2. もん より:

    お久しぶりです!歯の治療はなかなか大変ですね。手記を読ませていただいて、仮に自分が患者の立場だったらどうするのだろうと改めて考えさせられました。田んぼの風景、私はとても大好きです。今はこういう景色なかなかお目にかかれません。コスモスが咲くと秋の風情を感じますね。

  3. 乙女 より:

    噛み合わせが悪いと首まで曲がらなくなるなんて身体の構造って凄いのね。いつになったら満足な結果を出してもらえるのか、先生に聞いてみたいわね。稲刈りの匂いってどんな香りがするのかなぁ~草の匂いに似ているのかしら?

  4. sakura より:

    こんばんは。稲刈りの匂いってとっても興味あります。一度体験してみたいですね~今回ものどかな田園風景にコスモスがきれいに咲いていて心穏やかになりましたが記事を読み進めていくと「またぁ?」って思ってしまいました。これほどまでに様々な体験をされて、歯科治療に関してはかなりお詳しくなられたのでしょうね。。歯が悪くなるとこれほどまでに大変なのかと実感します。早く良くなって欲しいですよ…

  5. Misa より:

    こんばんは☆おかゆ断食、聞いた事があります。効果あるのですね~。私も普段飽食気味なので、こういうのが必要かも。。でも相変わらず、というか、先生の言っていること・・・お友だちがおっしゃるように、本当、ウソ、本当、ウソの繰り返しで、精神的におかしくなりそうですよね(>_<)泣きたいのに涙が出ないって、ものすごく重症ですよ。。。今日も素敵な秋の風景をありがとうございました(^-^)♪

  6. ぷち より:

    こんにちは・・・(^-^)私も稲の匂い大好きです。ほ~っと心が癒されるような気がしますよね!噛み合わせが悪いと、首が曲がらなくなるってすごいですね・・・歯って本当に大事だということがよくわかります。身体の不調と心の傷・・・どれほどしんどかったか・・・おかゆ断食・・・効果もあったと思いますが、精神的なものもあったのでは・・・’よう保ってる”ってお友達のことば・・私もそう思います。

  7. hulala より:

    ほんとに広~い田んぼですね。天日干しのお米はおいしさが違うというけれど、沢山干してあるんですね。きっとおいしいことでしょうね。おかゆ断食というのもあるんですね、hulalaは3日間断食しましたが、酵素断食です。春の草に砂糖をいれ発酵して出来た酵素を100CC飲んで3日間過ごすのですが、宿便が出たのか出なかったのか判りませんでした。

  8. booo より:

    おかゆ断食、効果があるんですね!(・∀・)/それにしても毎度のことだけど、、、技術も心もお粗末な医者ですね。。。またまた参考になれば・・・この記事画面のHTMLソースを見てみました。すると、通常の記事投稿では記述されないHTMLのタグがいくつも無数にありました。ということは、やはりワードで記事を作成して、それをそのまま貼り付けているのでそのようなHTMLになってしまっていると思います。自分が実際に試していないので、ワードだからなのかは定かではないですがどちらにしても、記事を作成したものをそのまま記事投稿に貼り付けているからではないかと思います。 これは前回書きましたように、テキストエディタで作成したのであればこのようにはならないはずです。なので、文字数自体は許容範囲だったとしても、HTMLソースで、本来必要ではないかなりの量のタグがあるために、許容オーバーになっているのではと思われます。これはあくまでも、問題解決のためのアドバイスですので、白い花さんが、なんとか騙し騙し、今のスタイルで続けるのであればまったくそれで問題ありませんので、参考程度に受け止めて下さい。それよりも、1日も早く歯の治療が終わることを願っています!(^┏_┓^)ノ

  9. たんぽぽ より:

    自分のどこか1ヵ所でも具合が悪いと大変ですよね。白い花さんが、一体いつまで我慢をすればいいのでしょう?神様に聞きたいですね・・・

  10. 洋子 より:

    私もいわゆるプチ断食といわれるものに多少なりとも興味があります。実行には至っていませんが、やった後体調が良くなるというのは女優さんもテレビで言ってましたね・・・いつか挑戦してみたいです。それにしても、主治医の言うことやること信用ならなくて困ってしまいますよね・・

  11. Tosh より:

    こんにちは 白い花さん♪ 奥歯が3本、上も、ですか・・・。 前後に歯がないと固定しにくいでしょうね。 技術的にかなり難しそうに思えます。 『入れ歯』にしてもどのようにしているのか、僕には想像できませんが、・・・。 歯茎にポリグリップなどのようにピッタリとくっつけることは簡単なのか、すらもわからないです。 奮闘はまだまだ続くのですね。 「大変だ。」の一言です。 僕だったら、どのくらい我慢できるのだろう・・・? それらを体験してきた白い花さんはすごい忍耐力の持ち主ですね。 語る価値ある内容ですね。

  12. main より:

    こんばんは・・・気長に治療するしかなさそうですね(-ω-;)ウーン。忍耐という言葉もむなしく響きます、頑張って下さい。

  13. 白い花 より:

    皆様、コメント有り難うございました。”稲刈りの匂い”というのは最近ではまったくしなくなりましたよね。機械の入らない棚田のようなところで、まだ手で刈って脱穀しているところへ行けば、あの匂いに出会えるのでしょうか。あの匂いは、草の匂いとは違って青臭さがなくて、香ばしいような、ちょっと甘いような、他では嗅いだことのないものです。お粥断食は週末ごとにすると良いらしいです。でも、金曜日の夜から始めて日曜日の夜まで、お粥持参で外出するつもりでないと実行は難しいです。自宅にずっといても、家族が協力的でないと辛いものがあります。で、あれっきりです。宿便ですが、私の場合、普通食に戻した途端、驚くほどどっと柔らかい便がたくさん出ました。これは普通のではないと、はっきり分かりましたよ。テキストに変換して貼り付ける手順は巧くいきました。あと3話くらいのところから、それにします。前のスタイルで、すでに何話か準備していますので。歯の治療のほうは、忍耐強くない私に天が与えた試練だと思って、頑張ります。

  14. mako より:

    こんにちわ♪♪~田んぼの風景ってこの住んでいる地域で先ず見ることがありません(ほぼ街中と言うこともありますが)市内郊外で田んぼを見ることはちょっとありますが稲を掛けたりした写真のような風景に出会うことはありません長閑な風景ですね、歯科治療で疲れた心が休まる風景では^^;外そうとしても外れないぐらいが・・・・・・・^^;;お疲れ様です^^;忍耐ですね

  15. 白い花 より:

    makoさんコメント有り難うございます。私の住んでいるところは三宮から小一時間の神戸の田舎です。新興住宅街なのですが、その周りは田んぼのままですので、散歩すると心休まる景色が広がっています。天日干しの稲は、農家の方がご自分で食べるのだと思います。普通の市販のは機械で乾かしますよね。

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