歯科治療9年の苦労ばなし  70 

     
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 今日の写真も、車で少し行ったところで撮りました。最近はなんとなく時間に追われ、
 
落ち着かなくって、休日には夫婦で近くをうろうろとドライブして、良さそうなところで少し
 
歩いたり、ランチにしたりです。
 
 歯の方は月曜日に病院へ行ってきましたが、イマイチでした。落ち込んでいます。詳細は
 
またブログの続きで。
 
 今回は、第一章の ”23 やっと出会えた名医” です。  
             
 
 
          「歯科巡歴の記―歯科からの帰還」
 
 
     第一章  二人目の主治医
 
 
          二十三  やっと出会った名医

 
 クラウンの作り直しの料金のことが一段落したと思ったら、新米の歯科医に修理してもらっ
 
たプラスチックの仮歯が二日で壊れた。
 
 
 
 
 またまた救急へ行く。たまたま主治医のキャンセル空きがあり、今度は二週間保った。
 
 次に二週間ぶりに救急へ行くと、主治医は出張のため留守で、救急医は私の一人目の
 
主治医が属していたYグループのナンバー1だった。
 
「ああ、この左側のプラスチックの仮歯やな」
 
 割れてバラバラになっていた二本の仮歯を修理して繋ぎ、高さも調整してくれた。手際が良
 
いのに驚いた。それに話し方が優しいのだ。
 
「有り難うございました。助かりました」
 
「これで良かったか。スプリントも割れてたから、ついでに修理しといたよ。はい、これ」
 
 えっ! いつのまに修理したのだろう。
 
 手渡されたスプリントはどこが欠けていて修理したのか、まったく分からなくなっていた。
 
しかも、修理した部分だけでなく、スプリント全体が綺麗に透明になっているではないか。
 
今まで、そんなふうに綺麗に修理したり、掃除してもらったことはなかった。
 
 スプリントはプラスチック製で、新しいうちは透明だ。使っているうちに傷が付いたり汚れた
 
りして、白く濁って不透明な部分が増えてくる。まして、欠けたところにプラスチックを足して
 
修理すると、その部分が白く濁った色になり、継ぎ接ぎしたところがはっきり分かる。いつも
 
そうだったので、そんなものだと思いこんでいた。それが違ったのだ。
 
 それまで何カ月も、スプリントは奥歯のあたりが大きく欠けたままで、欠けた角がギザギザ
 
で粘膜に当たって痛かった。我慢していた。診察時間が足りなくて主治医はそこまで手が回ら
 
ないのだと、諦めていたからだ。
 
「あのう、スプリントの高さの調節もお願いできないでしょうか」
 
 前回の主治医の診察時にスプリントの調整をする時間がなかったので、合わないままに
 
なっている。
 
「僕はスプリントはあまり扱わないから、それは主治医にしてもらって」
 
「そうですか。分かりました。有り難うございました」
 
 それにしても、手早いし、仕上げが綺麗で丁寧だし、よく気が付くし、優しいし、この診察室
 
にこんな歯科医がいたのだ。目の前が一度に開けた気がした。
 
 私の一人目の主治医はYグループのナンバー2だった。その後を、このナンバー1に引き継
 
いでもらっていたら、今のような状態にはなっていなかったのではないだろうか。こんなに何年
 
もかからなかったのではないだろうか。この大学病院へ来て、補綴科で最初に治療したのが
 
Yグループのナンバー3で、その後でナンバー2が主治医になった。ナンバー2がギブアップ
 
た後は、順番どおりにいけばナンバー1が主治医になるはずだったのだ。
 
 自分の不運を呪うしかない。
                              
 主治医の予約の日が来た。
 
 前回、作り直しのために型取りをした右側下のクラウン三本ができていた。今度は一本ずつ
 
別々だ。
 
「案ずるより産むがやすしで、今度は良い感じですね。良かった良かった」
 
 確かに、前の三本続きよりはずっとましだ。
 
「先生、ちょっと、きついのですが」
 
「いえ、こんなものですよ。これ以上緩いと、食べ物が歯と歯のあいだに挟まります。
 
すぐに慣れますから」
 
「でも、横に押して、両隣の歯が痛いのですが……。もう少し緩くはできないのですか?」
 
「こんなものです。歯科医として、そんな緩いのは作れません!」
 
「そうですか。でも……」
 
 私の場合、上下の歯の噛み合わせは少し歯が高目できついほうが、しばらく経つとちょうど
 
良くなる。だが、これまでの経験では、横にきついのはいつまで経ってもそのままのような気
 
がするのだ。ところが、主治医はむきになったように頑として聞き入れてくれない。
 
 一度はこのままで様子を見るしかないのだろうか。
 
 二個目を作ってもらって言いにくいが、言いたいことがまだあった。
 
「あのう、このクラウンせっかく作っていただいたのですが、やっぱり合っていないように
 
思います。低いというか、上下の噛み合わせの位置がずれているというか。収まりが悪いの
 
です。口の外から見ると上下の歯が届いて噛み合っているように見えるでしょうが、
 
舌のある内側の歯の部分は上下が届いていないのです」
 
「誰でもそうですよ。下の歯が少し内側に入って棚のようになっています。
 
僕の歯もそうです。君もそうだろう?」
 
 助手の歯科医に同意を求めた。
 
「はい」
 
「いえ、下の歯が棚のようになって内側に寄っているだけではなくって、そうじゃなくって、
 
内側は上下の歯が届かないので噛み合わず、上下の歯と歯のあいだに、
 
くさび形の隙間が空いているのです」 
 
 巧く説明できない。
 
「あなた、ずっと以前から、そう言っていますよね。うーん」
 
「はい」
 
 主治医がこんなことを言ったのは、初めてだった。私は三年前からずっと同じ主張をして
 
いる。救急の若い歯科医がとっくに気が付いてくれたのに、どうして主治医が分かってくれな
 
いのかと不思議に思っていたくらいだ。
 
 あまりに色々注文を言うのも気が引ける。とにかく三本続きの金属の板が、一本ずつの
 
三本のクラウンになったのだ。一カ月様子を見よう。
 
 
 
 思いなおして帰宅したその夜。
 
 お風呂に入ろうとして湯船に片足を入れた途端、ポロッと一本が外れた。三本のうちの
 
一番前の第二小臼歯で、歯の上にちょこんと載っているだけの部分クラウンだ。
 
 翌日、残りの二本も外れた。第二大臼歯は部分クラウン。第一大臼歯は全クラウンなのに
 
それまで外れてしまった。この歯はクラウンの下はエナメル質を削って、象牙質が丸出しの
 
天然の歯だ。プラスチックの仮歯の期間が長かったので、すでに歯全体が茶色になって
 
いた。クラウンのない不快感もあるが、虫歯が進行しても困る。このまま一カ月も放置して
 
おきたくない。
                              
 また救急外来へ行った。
 
「このあいだの、また外れたんか?」 
 
 今度も救急の歯科医は前回の人と同じで、Yグループのナンバー1だった。私のことを憶え
 
ていて、まだ診察台に辿り着かないうちに声をかけてくれた。
 
「いえ、十日ほど前に付けていただいた左側のは大丈夫です。今日は反対の右側です」
 
「ちょっと、待ってや」
 
 ちらと私の口の中を見ると、助手の歯科医に下準備をするように指示を出して、他の患者を
 
診に行った。助手の歯科医は若いがしっかりした人で、テキパキと作業を進める。私の話を
 
一通り聞き終え、クラウンが外れた三本の歯にまだ付いているセメントを取って掃除をして
 
から、三本のクラウンをそれぞれの歯に載せた。助手の作業が終わったころ、タイミング良く
 
歯科医がやって来た。
 
「ちょっと、きついんと違うか。主治医はどう言うてるねん?」
 
「ええ、我慢していればそのうち慣れると仰っているようです」
 
 助手の歯科医が説明する。
 
「このまま付けるか? どうしよう」
 
「きついので、クラウンの両横を削って緩くしていただきたいのですが、慣れると仰って……。
 
でも、次回の主治医の診察では削って緩くしていただこうと思っていました。このままで付け
 
てもまた外れるでしょうし、きついのは痛いですし……だから、今、削ってくださいますか」
 
「僕、主治医と違うしなあ」
 
「お願いします。このままでは、すぐにまた外れるでしょうから、
 
今日お伺いした意味がありません」
 
 隣との接触面がゆるゆるでも外れやすいが、きつすぎても押しくら饅頭のように弾き出され
 
てしまう。三本がお互いに適当な強さの圧力で横の歯と押し合っている状態でなければなら
 
ないのではないか。素人考えだが、私はそう思っていた。
 
「うん。分かった」
 
 歯科医は、歯に載せた三本のクラウンを順に指ではじいて観察を始めた。親指と人差し指
 
で輪を作りパチンと人差し指を弾じき出す。弾かれると、クラウンはポンと外れた。一本だけ
 
でなく、横の二本のクラウンも総崩れになるようだ。何度か試してから、それぞれのクラウン
 
の側面を少し削った。
 
 私と同じことを考えている。やっぱり、きつすぎても少しの衝撃で弾き出されるのだ。
 
 次に三本のクラウンをセメントで仮留めする。
 
 歯科医はガーゼの切れ端を取り出した。なにに使うのかと思っていたら、下の右側奥歯の
 
端から左側奥歯の端まで一続きの細いガーゼを丁寧に被せた。それから上下の歯を噛み合
 
わせるように指示をしたのだ。
 
「噛んで、しばらくこのままでいてや」
 
 たいていは綿花をその歯の上にだけ部分的に乗せる。それでは歯列全体の噛み合わせ面
 
が水平にならない。主治医はまったくなにも挟まない。部分的に挟むより水平が保たれるだ
 
ろう。だが、挟んだ方がきつく上下の歯を押し当てることができるのではないか。細いガーゼ
 
を薄く全体に敷くというのは名案だ。芸が細かいと感心してしまった。
 
 作業の途中、こんなことも言った。
 
「このクラウン、噛み合わせも削り直してやろうか」
 
 えっ!
 
「よけいに変になったと言われるかな」
 
「いえ、かまいませんので、削ってください」
 
「でも、僕、主治医と違うしなあ。一番怖いのは主治医が機嫌悪して、もうしてやらんと言う
 
ことや。やっぱり一回、主治医に削り直してもらってから、またおいで」
 
 良く響く声で屈託なく話す。私と同じで地声がもともと大きいようだ。私の朗読で鍛えたデカ
 
声は、この大きな部屋のかなり離れたところまで聞こえているだろうが、歯科医の声も負けず
 
劣らずよく通る。二人の会話は部屋中のみんなに聞こえているに違いない。ハラハラする。
 
振り返って診察室を見回した。五、六台向こうの診察台で主治医が治療をしているではない
 
か。診察室に入ってくるときは気が付かなかった。主治医はお手本になるような術式を見せ
 
ているのか、大勢の若い歯科医達にグルッと取り囲まれ、患者の治療をしていた。俯き加減
 
の背中がこちらを見ている。
 
「分かりました。主治医に一度していただきます。本当に有り難うございました」
 
「いつでも診たるからな。四時までに入ったら良いんやで」
 
「はい」
 
 外来診察は四時で終了だが、四時までに患者が部屋に入れば終了時間が過ぎても治療し
 
てあげるということだ。主治医は四時になれば、さっさと店仕舞いする。なんという違いだ。
 
 治療のほうも今まで見てもらった歯科医より上手だというよりは、観察力、技術力とも段違
 
いでレベルがまったく違うと言ったほうがピッタリだ。患者に対する余裕のあるあの態度も、
 
きっと腕に自信があるからできるものに違いない。
 
 前回はスプリントの調整をしてくれなかったが、それは自分が主治医でないので主治医の
 
教授に遠慮してのことだと他の歯科医から聞いていた。短い期間に立て続けに二度も救急で
 
私が来たので呆れて、診てくれる気になったのかも知れない。やっと、これはと思える歯科医
 
に巡り会えたのだ。これで治るかも知れない。
 
 嬉しくて安心しきって家路に付いた。高速道路の前方に輝く太陽が大きい。アクセルを踏み
 
込み、ひたすら追いかける。
 
 三本のクラウンは、その後何カ月もしっかりと付いていたのだ。

               つづく
 
 
 
 
 

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歯科治療9年の苦労ばなし  70  への15件のフィードバック

  1. abend より:

    技術も必要だけど診る力というのは 天職みたいな人じゃないと無いのかもしれませんね。何をしてもそうだけど異変に気付く事 すっごく大切ですね。

  2. ちえみ☆ より:

    少しは良くなったんですね。いい先生に出会えてよかったですね。患者さんが気を使うっておかしいですよね。

  3. パンチ より:

    愛護の医者いいね。

  4. Tosh より:

    こんにちは 白い花さん♪ なるほど、ね。 ようやく巡り会えたのですね、良い歯科医と。 それにしても大学病院って、そんな所ですか! 教授の見栄が蔓延り、誰も文句を言えない、閉鎖的世界。 おべんちゃらがまかり通る虚構の世界。 まるで小説を読むようですよ。 田舎者には決して理解できない所ですね。 我慢を重ねてようやく良い歯科医に巡り会えたあなたは幸運だった、というのが正しいのでしょうか? 僕なんか、我慢しながら人間嫌悪に陥りますよ。 今後の解決編(?)を楽しみにしています!(^o^)!

  5. Chieko より:

    こんばんは(*^_^*)良心的な先生で良かったですね(^_-)-☆ これからまた診ていただけるようになると安心ですね^^私も解決編をたのしみにしてまーす♪

  6. hulala より:

    こんばんはエノコログサが優しい感じがします。右手の空き缶が気になりますが・・・・。

  7. 洋子 より:

    長かったですね、これは、と思う医師に辿り着くまで。対応が良いと精神的な面でも大きく違ってきますもんね。

  8. たんぽぽ より:

    いい先生でよかったですね(^-^)

  9. 乙女 より:

    長い間苦労したけど、もう解決編に向かえそうな予感がするわ。

  10. booo より:

    むむ??なにか良い方向に向かっているようですけど、最新の状況は「歯の方は月曜日に病院へ行ってきましたが、イマイチでした。落ち込んでいます。」なんですよね?!・・・・( ̄_ ̄;)今回の記事では、まだ手放しでは喜べないようですね。。。ご夫婦でドライブしてランチなんて、本当にいい時間を過ごしていますね!(・∀・)/歯の治療は本当に大変ですけど、白い花さんはそれ以上にステキな時間を過ごしているように思います。

  11. Misa より:

    こんばんは☆今までの記事に比べると、今回はぱあーっと明るい雰囲気で、ああ、いい先生もいてよかったなあ。って思ったけれど・・むむむ、↓でboooさんがおっしゃっていますが、最初の一文がすごく気になります…(>_<)

  12. ぷち より:

    こんばんは・・・(^-^)このまま良い方向に行くことを願っていますが・・・まだまだなんだか不安な感じですね・・・でも今回の’名医に出会えた”というタイトルに、白い花さんの明るい表情が見えてちょっと嬉しくなりました。

  13. sakura より:

    良かったですね~今後その名医が主治医になってくれることを願っています。大学病院は縦割り社会ですからね…今の主治医と同じグループということは可能性ありますよ!今までと違って自分の主張もされてきているようですし、このまま良い方向へ行ってくれるといいですね!

  14. mako より:

    こんにち~~わ~~^^事細かな描写で様子が良くわかりますね^^よい先生との出会いのようでしたが、いかがな物でしようか・歯はね合わないと辛いですよ、大事な“食”ですからね良い方向に行きますように・・・・・・・

  15. 白い花 より:

    皆様、コメント有り難うございました。良い先生に出会えて良かった、と、安心したのですが・・・最後の写真の空き缶、私の気持ちです!?!?!?

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