歯科治療9年の苦労ばなし  80  

 
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  今日の写真は我が家の冬枯れの庭です。最近外出する機会がなくて、ずぼらな写真に
 
なりました。
 
 歯の方は、あいかわらず、部分入れ歯が痛くて、外したり付けたりを繰り返しています。
 
あちこちで外してしまうので、なくしそうです。予約はいよいよ来週の20日。前回に型取りした
 
右奥下のクラウンができているはずなので、期待しています。
 
 今回は、第三章 大学病院から民間病院へ の ”2 ポカーンと口を開けて” です。
 
                             
                                         上が桜、下がもみじ
 
 
           「歯科巡歴の記―歯科からの帰還」
            
   第三章 大学病院から民間病院へ
 
 
         二  ポカーンと口を開けて
 
 
 「スプリントを四カ月嵌めていれば目処がつく」と言われ、転院する決心をした。
 
 一週間後にスプリントができる予定だ。大学病院だと一カ月、ときに一カ月半以上も待つ
 
ことがあるが、それと比べると四倍の早さなのだ。
 
 
 
 一週間はすぐだった。
 
 新しい病院歯科の二回目の診察日。通院二度目で道に慣れたせいか、乗り物の乗り継ぎ
 
巧くいったせいか、三十分以上も前に病院に着いた。
 
「いかがですか、調子は」
 
 前と同じように、にこやかに尋ねてくれた。
 
「前回、帰りは、なぜかルンルンでした」
 
「アハハハー、ちょっと魔法をかけたのですよ」
 
 歯科医は明るく笑った。衛生士もつられて楽しそうに笑う。患者の調子が良いのは治療す
 
る側にとっても嬉しいことなのだ。
 
 先週型取りをしたスプリントができていた。
 
 スプリントは硬いプラスチック製でマウスピースに似ているが、少し違う。形は総入れ歯にも
 
似ている。上の歯列に被せるのと、下の歯列に被せるのと二種類ある。私の場合は上だ。
 
上の歯に接触する面は上の歯形通りの凸凹がある。下の歯に当たる面は平らだ。プラスチッ
 
クが上顎の奥まで伸びていて粘膜に触れる。人によっては嘔吐しそうになって付けられない
 
こともあり、そんな人には下の歯列に付けるらしい。幸い私は平気だった。
 
「はい、これを付けますよ。今から調整していきます」
 
 歯科医がスプリントを見せてくれた。
 
「へえー」
 
 思わず声が出た。いかにも精巧そうで、仕上がりが驚くほど美しい。
 
 以前、大学病院で一人目の主治医のときに作ったスプリントは、プラスチックだけでなく
 
金属の細い線が付いていて、それが歯に引っかかって外れないようになっていた。取り外しを
 
するときも、突き出た金属の部分を引っ張って外した。細工が下手なのか、スプリントと左奥
 
歯列の間に隙間が開いていて、ギッコンバッタンとシーソーのように安定が悪く、歯も引っ
 
られ痛かった。引っ張られた数本の歯の生えている角度が一カ月ほどして変わったくら
 
だ。後の祭りだが、それが後々まで災いしているように思えた。
 
 今度のはプラスチックだけでできている。上の歯列全体に被せると、ピタッと張り付いたよう
 
に落ちてこない。精巧なものでないと、こうはいかないだろう。腕の良い技工士を揃えている
 
ホームページに書いてあったが、看板に偽りはなさそうだ。ただ、ピッタリしているからか、
 
全体が少しきつい感じがした。
                            
                          南天が大きくなって屋根まで届いています
 
 歯科医は今回もまた下顎をガクガクいわせ、顎関節と噛み合わせの位置を確かめた。
 
それから、スプリントを付けた状態でも何度もガクカクをする。スプリントを付けた状態で
 
顎関節と噛み合わせが正しい位置になるように、下の歯と接触する平らな面を下の歯の凸凹
 
に合わせて少しずつ削る。削っては嵌めてガクガクをする。その後、赤い紙をカチカチと噛ま
 
せてを付け、また削る。それを何度も繰り返した。
 
「付けるのは、最初は眠るときだけで良いですから」
 
「ええ。あのう、ちょっと、きついようですが」
 
「緩いと、外れてはいけないと無意識に筋肉が反応して緊張します。
 
それだと正しい顎や噛み合わせの状態にならないのですよ」
 
 そうは言ったが、少しだけ削って緩くしてくれた。
 
「あなたは、今は噛み合わせの正しい位置を自分では分かっていない状態ですから、
 
なにも考えなくて良いのですよ。スプリントを外しているときは、なるべく歯を噛み合わせない
 
ように、口をポカーンと開けていてください」
 
「アハハハハー」
 
 思わず笑ってしまった。衛生士も、さも可笑しそうに笑った。
 
 歯科医は冗談混じりに指示を出したあと、理由を詳しく説明してくれた。
 
 今までは、前歯一組しか上下の歯が噛み合わないので、当然その歯だけを噛み合わせて
 
いた。それで、脳にその噛み合わせの位置がインプットされてしまった。歯を噛み合わせる
 
たびそれが情報として脳に伝わり、無意識の記憶が強化される。だが、正しい噛み合わせの
 
位置は別に存在する。スプリントを嵌めた状態で噛み合わせが正しくなるように調整してある
 
が、スプリントを嵌めていないときの噛み合わせは正しくない。だから、そのときは間違った
 
記憶が脳に届かないようにするために、歯を噛み合わせてはいけない。口を開けておくのが
 
良いのだ。
                          
                                         白百合の実がはじけたあとのからです
 帰りぎわ、説得するように真面目な口調でさらに付け加えた。
 
「あなたの今の噛み合わせは本来の噛み合わせの位置から、2ミリから、うーん1・5ミリかな
 
ずれています。これは、噛み合わせがぜんぜん合っていないというレベルの数字です」
 
「えっ!?」
 
 私の驚いた顔を見て、さらにもっと真剣な顔で言った。
 
「今の噛み合わせと正しい噛み合わせとのズレ1・5ミリのあいだに、妥協できる適当な噛み
 
合わせの位置がきっと見つかるはずです」
 
 これまでの歯科医とはまったく違う、予想もしなかった説明だ。驚いて、嬉しくて、私をすっ
 
ぽり閉じこめていた硬い袋の口が一度に緩んだ気がした。
 
 道理で、前に作ってもらったクラウンや部分入れ歯が合わないわけだ。
 
                           
                                                ヤツデの花のつぼみ
 この歯科医の説明は、これまで一度も聞いたことがないことばかりだった。
 
 大学病院では客観的に噛み合わせを決める方法はないと言われ、私の感覚だけを頼りに
 
型を取っていた。いくら合っていないと言っても、「これで理想的にできています。これ以上は
 
どうも出来ません」という返事が返ってきたこともある。何度も合わずにクレームを言うのは
 
私が気にしすぎで、神経質な私の性格が悪いと言わんばかりの扱いを受けてきた。
 
 医者にそういう態度を取られるたび、歯の不快感や痛み以上に、心に重い鎖が絡み付くよ
 
うな苦しさが増した。「違う、違う、そうじゃない」と、必死で心の中で叫んでいたのだ。
 
 私は体で感じたことを表現しているだけだ。上下の歯を噛み合わせようとしても、 クラウン
 
が低いので上下の歯が噛み合わない、食べ物が巧く噛めない。部分入れ歯が合わなくて
 
痛いし、噛めない。クラウンや部分入れ歯の金属の端が舌を引っかいて血が出て痛い。
 
それを言うだけで、どうしてこんな扱いを受けなくてはならないのか。今までは、ますます
 
精神的に追い詰められるばかりだったのだ。
 
 だから、今度の歯科医の説明は、新天地で神に出会ったほどの驚きだった。
 
 噛み合わせが自分で分からないのも、合わないと何度もクレームを言うのも、患者の気まぐ
 
れのせいではない。それは原因があるからだ。患者はなにも考えずに、ただ口をポカーンと
 
開けていれば良い。医者に任せておけば、医者が噛み合わせの位置を見付けてくれる。
 
 心の底から安らぎ感じた。
                              
                                                   白いサザンカ
 この日は、スプリントの調整に一時間半もかかった。
 
 診察室を出ると、次の人が待ちくたびれたようすで椅子から立ち上がった。
 
「お待たせしました。私で時間を取ってしまって、申し訳ございません」
 
「いえ、良いんですよ」
 
 笑顔で言ってくれた。見知らぬ人のそんな言葉さえ、体も心も全身を暖かく包んでくれる。
 
 この病院では、医師だけでなくスタッフも親切で優しい。今までは、こんな親切な応対はして
 
もらっていなかった。なにもかもが心地良い。
 
 スプリントは再診料込みで二万六千円。民間の歯医者の相場だ。細工の精巧さ、診察時間
 
などを考えると高くはないだろう。
 
 余談になるが、大学病院では義歯やクラウンなどは世間の相場だが、なぜか仮歯やスプリ
 
ントは格段に安かった。自由診療だから安い値に設定しても自由なのだが、それで採算は取
 
れるのだろうか。いったいどうなっているのだろう。治療の中身とは関係のないことだが、ふと
 
になった。
                                                   
                                             ショッキングピンクのサザンカ
 
 帰り道。前回のときとは違って、理性的な意味での心配も小さくなっていた。
 
 ガクガクを初診のときほどはしなかったせいか、生理的には前回ほど気持ち良くはなかった
 
が、ルンルン気には違いない。ウナギの道沿いの商店街で、水色に細い銀のストライプが
 
キラキラ光るブラウスをつい買ってしまった。
 
 おまけに、帰りの電車を乗り間違えた。あらぬ方向へ走っているではないか。緊張が解れて
 
気が抜けていたのか、まだ頭で考えることが残っていたのか。
 
「やっぱり。じゃないかと思ってた。あなた、最初は緊張していて間違わないけど、
 
二度目のときはいつも間違えるわよね」 
 
 翌日、経過報告をしたとき、友人が電話の向こうで笑った。
 
 良かった。緊張が解けて気が抜けていたのだ。
 
                             つづく 
 
 
 
 
 
 
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歯科治療9年の苦労ばなし  80   への19件のフィードバック

  1. ポポちゃん より:

    良い歯科医に巡り合ったようだけど楽観できないような、クラウン合えばいいね。

  2. booo より:

    おっ! なかなかいい感じの歯科医に巡り会いましたね!白い花さんが天にも昇る気持ちが想像つきます!(^┏_┓^)しかし、庭にこれだけの花が咲いているんですか?! すごっ!(◎-◎;)

  3. САБУРО(サブーラ) より:

    大学の付属機関の病院医師は教授=権威雑多な医学知識はあっても、患者へのメンタル知識があるとは言えませんからね。民間病院は、全てそうだとは言えませんが世間の風評で患者さんが来院しなければ、経営が成り立たないことを心得ていますから、患者さんへの接遇も、気に掛けておられるのでしょう。それだけでなく、記事を読む限り、技術的にも優れた病院のようですのでひとまず、良かったですね。(^^)

  4. もん より:

    久しぶりにこちら拝見したんですけど何だか今度の歯医者さんは相当いいかたのようですね。このまま治療が巧くいくといいですね。

  5. アカショウビン より:

    病院というか、医師によってこうも違うものなのですね。屋根まで届く南天・・・@@;あまり大きくなる木のイメージがありませんでしたが、たくましいですね^^緑も多くて、春の気配も感じられますね(*´∇`*)

  6. ちえみ☆ より:

    こんにちわ~本当に良かったですね。沢山のお医者さんの中でやっといい方に出会いましたね(^_^)v私も嬉しくなって来ました(*^_^*)

  7. hulala より:

    こんにちは桜ともみじが天に届きそうですね。水仙がもうちょっとよ、と云ってるようです。

  8. sakura より:

    こんにちは。長い間続いた苦しい治療から解放されて良かったですね~誰でもルンルン気分になると思います。ここまでたどり着くのに時間もお金も費やしたのですからね!本当に良かったです!

  9. Jasmine より:

    大変ご無沙汰していてすみません。今回は、なんだかとてもいい兆候のようですね。読んでいてホッとします。お庭のお花もとてもきれいですね!白百合の殻が飛んだあとだったのですね。以前見かけて「なんだろう?」と思っていました。屋根まで伸びる南天も素晴らしいですね。

  10. 乙女 より:

    何だかいい感じになってるね(^_-)-☆このまま明るい方向に行くといいわね。

  11. mako より:

    (^O^)/ ~~ こんばんは♪>新天地で神に出会ったほどの驚きだったいいですね、屋根までの南天凄い、買わなくていいんですね私は買うものですから^^;

  12. 洋子 より:

    今回はまったく違った角度から良い光が射しているようですね。それにしても人の一言の重み・・・良くも悪くも重要ですね。

  13. たんぽぽ より:

    緊張している生活は、とても疲れるでしょうね。でも、緊張が解けてよかったですね(^_^)ショッキングピンクのサザンカ、とてもきれいですね。

  14. Nami より:

    いい歯医者さんに出会えてよかったですね。冬の植物が素敵です。

  15. Chieko より:

    こんにちは(^O^)/1.5mmの違い・・・口のなかだったら大きな差ですよね。いい先生みたいでよかったですね(^_-)-☆緊張してたら口も開かなくなっちゃうもんね。

  16. さんぽ より:

    こんばんは。いい医師と出会えて読んでるフーも なんだか嬉しい気分です。クラウンが合えばいいけど・・・山茶花がきれいですね~特に白は大好きです!

  17. main より:

    こんばんは~(*^-^*)。気持ちが楽になるのも治療なんですね、お医者さんの言葉の重さをつくづく感じます。ところで、阪神大震災から15年、震災経験者としてのコメントありがとうございました。助け合いが当然のごとく出来る今の日本に生まれて良かったと私も思っています。

  18. 白い花 より:

    皆様、コメントを有り難うございました。本当に良い先生に出会えたと、喜んでいました。我が家の庭はこの10年近く殆どほったらかしなので、ジャングル状態です。木はかなり自由に伸びています。私が元気なときは夏の間に消毒を5,6回もしていたのですが、今はしていません。ところが、できなくなってからの方が木が元気になったようです。植物にも免疫があると本には書いてあるのですが、薬をかけているとその力が弱くなるのでしょうか。

  19. Tosh より:

    こんにちは 白い花さん♪ ブラウスの衝動買いに電車の乗り間違いですか! 気持ちが『上の空』ということでしょうか? でも、ようやく光明が見えてきた思いが伝わってきますね。 当たり前のように普段噛みあっている歯というのも、意外なことで噛みあわなかったりするのですねえ。 それに伴って、肩凝りや首凝りも引き起こす・・・。 うーーーん。 ある意味恐ろしい事態ですね。 今後の展開に明るさが見えるので、安楽に読んでしまいましたが、 この後にも問題が起こるなんてことはないのでしょうねえ・・・。 昨日今日とようやく町が明るくなりました。 空気は冷たいですが、お日様はポカポカと暖かです。 昨日が『立春』でしたから、 少しずつ『春』めいてくるのでしょうね!(^0^)!

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