歯科治療9年の苦労ばなし  88

 
                  P1000290 
 
     今日の写真は須磨離宮公園です。夫と二人でブラブラ散歩してきました。梅はもう終わり
 
    でしたが、お茶会がありました。横目で通り過ぎましたが。
 
     歯の方は4月の予約を待つのみです。3月の確定申告の医療費控除額が、今年は20万
 
    円を切りました。夫婦合算の金額ですが、殆どが私の歯の治療費です。この10年間、多い
 
    ときは50万円、だんだん減ってきて去年は30万円程になっていました。治療費が減ってい
 
    るのは、治ってきている証拠だと感慨深いものがあります。これは今年の話で、下のは
 
    2009年の話です。
 
     今回は、第三章 大学病院から民間病院へ の ”10 もう保たない”です。
 
              
                                                須磨離宮公園です。向こうに瀬戸内海が見えているのですが、分かりにくいですよね。

 
             「歯科巡歴の記―歯科からの帰還」
            
              第三章  大学病院から民間病院へ
            十  もう保たない
 
 
 
 新年早々、突然、歯科医が言った。「クラウンなどは作り直さない。四月から診察が月に
 
一回になるので、三月末で診察は打ち切る、あと二カ月の間に他を探せ」と。月一回の診察
 
なら大学病院と同じだから、ここで診て欲しいと頼んだが、駄目だと言う。
 
 いくらなんでも酷すぎる。急に打ち切りも酷いが、それならそれで次の医者を紹介してくれる
 
ものだろう。
                                  
 
 突然の話に呆然とする。いくら頼んでも、引き続き診察することはできない、他に紹介もでき
 
ないの一点張りで、取りつく島もない。
 
 七十歳近い年だ。どこか健康状態に差し障りがあるのだろうか。ひょっとしたらガンとか、
 
なにか重篤な病気なのかも知れない。突っ込んで聞くのもはばかられた。昨年の夏にここへ
 
転院したとき、歯科医の年齢が気になっていた。どうぞ、私の治療が終わるまで元気でいて
 
くれますようにと、つい思ったものだ。
 
「有り難うございました」
 
 私の帰りぎわの挨拶に、歯科医は笑顔を作った。それでも私が診察室を出ようとドアに手を
 
かけたとき、カルテを書きながら上目遣いに私の姿を追っているのが分かった。他の衛生士
 
受付の事務員も引き攣ったような顔で、私をじっと見つめていた。いつもの笑顔はない。
 
部屋の雰囲気も、いつもとは違った。シーンという音が私を目掛けて刺さってくる。私の感じ
 
いる以上にたいへんなことになったのだと、改めて気が付いた。
 
 廊下を一歩、もう一歩と進む。階段を一段、もう一段と下りる。一歩、一段ごとに実感が
 
湧いてきた。大変なことになったのだ。どうしよう。一階の会計カウンターに辿り着く頃には、
 
絶望感が押し寄せていた。やっぱり治らないのだ。
 
 帰りのウナギの道はどう歩いてきたのかも記憶にない。自宅に辿り着くまでの記憶が
 
まったくなかった。なんで月に一回の診察になるのだろう。病気なのか、それとも他の病院へ
 
変わるのだろうか。どこか他の病院でも診察をしていないだろうか。そんなことばかりが頭の
 
中で行ったり来たりしていた。
 
 帰宅すると、すぐにインターネットで調べたが、他では診察はしていないようだ。その日は、
 
他にはなにをする気力もなかった。私の精神力ではもう保たない。
 
 治療を始めて三年目の頃も、もうこれ以上は精神的に保たないと思い詰めていた。
 
衝動的に自殺するかも知れないと、自分自身の行動が不安だった。通院の途中で電車に
 
飛び込みそうになる。プラットホームの端には立たない、端は歩かないようにしていた。
 
歯を大きな石にぶつけて粉々に砕きたい。そんな衝動にも駆られ、その姿が目に浮かぶたび
 
寒気がした。
 
 今度は、あの時ほどの元気がない。エネルギーがもう残っていない。その場にへなへなと
 
崩れ落ちて、消えてしまいそうだった。もう駄目だ。
 
                              
 翌朝、なんとか気力を取り直す。
 
 愚痴っていても仕方がない。できることをしておこう。
 
 とりあえず、大学病院に電話して、これからのことを相談するための予約を取った。予約を
 
取るなら少しでも早く電話したほうが良い。歯周科の担当医の予約はキャンセル空きがあっ
 
て、三週間後の二月半ばに取れた。元の主治医に会うのは気が進まなかったが、補綴科の
 
予約も取った。一カ月半後の三月半ばまで空きはなかった。
 
 それから、今かかっている民間病院へも電話を入れた。昨年からの治療内容を書いた紹介
 
状を頼むためだ。大学病院へ相談に行くときに持っていくつもりだった。いくら私が厚かましく
 
ても、「他へ行きます」と転院して、十カ月経って「やっぱりまたお世話になります」とは言いに
 
くい。今の歯科医から事情を説明して頼んで欲しい。紹介状を書いてくれるかどうかは分から
 
ないが、それくらいは歯科医の当然の責任だろう。
 
 自分で思いつくことはした。あとはなにもない。
 
 いつもならすぐにでも友人に電話をするのだが、その気力もなかった。それに、こんな話を
 
聞かされても、返答にも困るだろう。
 
           
           一枚目の写真はこの写真の白い建物のところから見下ろしたもので、これは下からあ見上げたものです。
             白い建物の前が滝になって水が流れ落ちて、下の噴水のところまで流れてきています。
         
  しばらくして、たまたま友人から電話があった。話さずにはいられない。
 
「こんなん、どう思う?!」
 
「うそ! そんなバカな! それに、もし自分が診られないのなら、責任を持って次の医者を
 
紹介するのが当たり前、常識でしょう!」
 
「普通はそうするよねえ!」
 
「無責任すぎる。信じられないわ。もし、他の病気で医者がそんなことをしたら、どうするの? 
 
大問題でしょう? 歯医者っていうのは、医者の自覚がないのかしら」
 
 それ以後は堰を切ったように、知り合いに電話した。誰に聞いても同じことを言った。
 
「次に行ったときに、ここで最後まで診てくださいと、もう一度、泣きついてみたら」
 
「そうね、駄目元で頼んでみようか。大学病院へ帰るにしても月に一回の診察で同じことだし
 
他に民間の歯医者のあてもないし。そもそも大学病院で駄目だから、他に適当なところもない
 
から、あそこへ転院したんだもん。これも前回、話したんだけどね」
 
「そう。でも、もう一度頼んだら、そこまで頼りにしているのならと、思い直すかも知れないよ。
 
ああ、それと、公の医療相談みたいなところに電話して聞いてみたら」
 
 そんなアドバイスをくれる人もいた。
 
 なにか知っていそうな人に片端から電話したが、他にこれという名案はなかった。
 
 インターネットでも歯科医を探してみたが、適当なところは見つからない。最新の技術を売り
 
に歯列矯正をしている歯科や、審美歯科はたくさんある。顎関節の治療を謳っている歯科も
 
ある。だが、筋肉について知識があり、顎関節も噛み合わせも解り、補綴もするというような、
 
総合的で地味な治療に重点を置いた歯科はないのだ。
 
「スプリントを使って長期間治療するようなスタイルは儲からないから、
 
そんな歯科医はだんだん減って、今は殆どいないのよ。昔そんな治療が流行ったときにやっ
 
いて、続けている年寄りの歯科医ぐらいね」
 
「そうなの。道理で、見つからないはずね」
 
「審美歯科とか、矯正歯科とか、インプラント専門歯科とか、仕事が楽で儲けの多いほうに
 
流れるのよ」
 
 自身も歯科治療で苦労している知人が教えてくれた。
 
 歯科でなくても、産科や小児科などの3K労働の医者は減っていて、美容整形や肌のケアー
 
などの美容方面の医者は増えている。そういう時代なのだ。
 
 気分が落ち込むばかりで、どうして良いか分からない。今度は本当に保たないかも知れな
 
い。一軒目の歯医者から八年半、なんとか持ち堪えてきたが、もう駄目だ。自信がない。
 
行動が起こせずに、ぐずぐずと時が過ぎる。
                                  
 
 やっと、市の医療相談に電話をする気になった。ワラをも掴む思いだ。
 
「治療ミスや損害賠償の訴訟をするための相談はしていますが、
 
これからの治療のためのアドバイスはしていないのです」
 
 相談員はそう言ったが、県の歯科医師会で相談窓口を開いていると教えてくれた。
 
 そこへ電話をすると、驚いたことに民間病院のあの歯科医の名前を出しただけで、話が
 
んだ。
 
「偉い先生ですから、ご自分で失敗したのを目下の人に頼むのは面子が潰れるので、
 
紹介したくないのでしょうね」
 
 えっ!? そんなふうには考えもしなかった。これが自然な考え方なのか。
 
「あの先生は、その辺の歯科医や学生から見れば雲の上の人なのです。大学歯科病院の
 
院長をしておられた方で、第二補綴だけでなく、第一補綴と第二補綴の両方の教授を兼任な
 
さっていたこともあります。だから、紹介しようと思えば、どちらの科にもできるはずですよ」
 
 私が知らないことを色々と正確に知っているようだ。歯科医師名簿のようなものを持ってい
 
て、それを見ているのかも知れない。
 
「あのう、それで、どこか適当な歯科の紹介はお願いできないのでしょうか?」
 
「私達事務員は紹介できないことになっています。ですが、こちらまで来ていただければ、
 
当番の先生がいて、その先生からは紹介できますよ」
 
 当番制で歯科医が詰めていて、歯の状態を診てから適当な歯科を紹介してくれると言う。
 
翌日の約束を取ってくれた。
                     
 
 冬の冷気に静かに日が射していた。古い土塀が傍らに続く石畳の道を行くと、目指す建物
 
があった。
 
「どういうことでお困りですか?」
 
 緊張して待っていると、セーター姿の歯科医が足取りも軽く現れた。四十歳前後だろうか。
 
雰囲気が若々しくて、まだ青年の風情を残している。
 
 私の話を、メモを取りながら聞いてくれた。歯の状態も診てくれた。一時間半はかかっただ
 
ろうか。
 
「これは、開業医では手に負えないですね。知識も技術もないですし、時間もかかるので
 
経営上もね。話を聞くだけでも一時間以上もかかりますから」
 
「やっぱり、そうですか。大学病院でなくても良いのならと、迷っていたのですが」
 
「筋肉や顎関節や、様々の知識がないと。僕の出身大学では、そういう患者さんを診ること
 
できるので紹介できますが、ここからだと新幹線で通うことになります」
 
 歯科医の出身大学には、複雑な症状の患者のためのプログラムがあるそうだ。専門の違う
 
複数の歯科医がチームを組んで、治療に当たるという。
 
「ちょっと遠いですよね」
 
「そうですね。だけど、もとの大学に戻るにしても、そこが駄目で他へ変わったのですから
 
ねえ……。あと、この辺だったら、歯科大学がもう一つあります。そこへ行ってみますか? 
 
町中なので、通院にも前の大学病院よりは便利ですよ」
 
「大学病院でないと治療できなくて、前の大学以外と言えば、そこしかないですよね。
 
一度行ってみます」
 
「僕に腕があれば良いんですが。もし行くところがないときは、また来て下さい。
 
相談に乗りますから」
 
「長い時間、有り難うございました。またのときは宜しくお願いします。
 
どこもないときは、新幹線に乗ってでも通うつもりでいます」
 
 ここへ来るまではお先真っ暗だったが、光が見えてきた。新しい気力が湧いてきたように
 
感じた。
 
「ゆっくりお話が聞けて良かったですね。お顔の表情がずいぶん明るくなりましたよ」
 
 昨日、電話で応対してくれた事務員さんも、そう言って見送ってくれた。
 
 優しくて忍耐強い先生で良かった。一軒目の歯医者からの話を延々と聞いてもらえただけ
 
でも、心が落ち着いた。開業医の歯医者では無理だということも、はっきりした。近隣の大学
 
病院は二つしかない。前に行っていたところにするか。もう一つの歯科大学にするか。
 
 日が陰り始めた石畳の道は、まだ暖かそうにキラキラと光っていた。
                つづく
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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歯科治療9年の苦労ばなし  88 への14件のフィードバック

  1. booo より:

    どんな先生よりも、「忍耐強い」のは、白い花さんだと思います。友だちに話しを聞いてもらうだけでも、気持ちが軽くなる事ってあるし、違った側面からも考えが出てきたりしますよね。(゜▽゜*)次のステップととらえて前に進むしかないですね!(・∀・)

  2. hulala より:

    素敵な公園ですね。5枚目の写真はツゲの木かな、面白い刈りこみです。

  3. САБУРО(サブーラ) より:

    歯の形、大きさは人それぞれ微妙に違い、治療は、本当にワンツーワンだから難しいですね。・・・・・・うーん、・・・・・・また続きを読ませていただきます。

  4. mako より:

    こんばん~~は^^綺麗な公園ですね夏になると噴水がいっそう映えそう木が面白い形に刈ってますね

  5. tae より:

    うわぁ、そんな自分がミスったのがバレるのが恥ずかしいから、フォローなしで切り捨てるなんて・・・なんてしょうもないプライド持ってる精神年齢中学生な歯医者さんw大学病院で早く良くなるといいですね❤❤

  6. アカショウビン より:

    私も昨年に、少し歯科治療しただけでも、違和感がずっとあって、最近になって、ようやく気にならなくなってきました。それに比べ、あちこち削ったり作り変えたり頻繁にされていると、体も、精神的にも辛いでしょうね(>_<)0.1mmにも満たないような、僅かな違いでも敏感に感じ取って、健康への影響は大きいなと感じました。

  7. Misa より:

    こんばんは☆白い花さんが絶望の淵の中、ホームの端に立たないようにしようという思い、ものすごくリアルで、拝見していて怖くなってきました。そこまでひとを追い詰めたお医者さんは、その自覚がないままに、今日も誰かを診ているのですよね。 サイアクです。最後の当番制のお医者さんが言う病院で、いい治療が出来ればいいのですが・・

  8. sakura より:

    こんばんは。歯科治療で数年間という事実だけで精神的に不安定になりますよね…紹介が出来ないなんて無責任すぎますよね!しかも自費治療を受けていたのですからそれなりのことをして貰ってもいいのに!酷いですね。。。

  9. ポポちゃん より:

    菜の花綺麗、噴水の行列のあるとこ大阪城公園南側入り口に似てるよ。

  10. ぷち より:

    おはようございます・・・(^-^)本当にご苦労されている様子がひしひしと伝わり・・・私にも経験のある絶望感がリアルによみがえってきました・・・。それでも、決して諦めることなく前向きな白い花さんに私も勇気をもらう思いがしています。

  11. たんぽぽ より:

    ゆっくり聞いてもらえてよかったですね。瀬戸内海、見えますよ。

  12. 洋子 より:

    スッキリしたデザインの素敵な公園のようですね。グルグル巻いているコニファーも面白いです。色々な所に当たってみるものですね。何かしらの手段に出会えるかもしれないですもんね。

  13. Tosh より:

    こんばんは 白い花さん♪ とんでもないことになったのですねえ。 しかも、去る1年前のこと。 8年間半も! まだ治らない。 すご~く恐ろしい事実です。 そしてなお継続中とは! 驚きです。

  14. 白い花 より:

    皆様、コメントを有り難うございました。先週から少し疲れ気味ですが、歯のほうはまあまあ順調です。

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